♪ Concert Note ♪

2004/10/15 Wed.

ダン・タイ・ソン ピアノリサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール   
Piano:ダン・タイ・ソン  

 久しぶりのコンサート&キタラ。 芸術の秋にふさわしい、美しく奥深いダン・タイ・ソンのピアノリサイタルを聴いてきました。 チケットを購入したのは春でしたが、コンサート直前まで、プログラム曲中のドビュッシーの作品を「前奏曲」第1集、第2集と思い込んでいました。 当日になってパンフレットを頂いて、それは「映像」の第1集、第2集であることが判明。 私としては、こちらの方が嬉しかったのですが、半年近く勘違いしたままだったなんて、思い込みとは怖いですね。
 「水の反映」の、あの素晴らしく幻想的で美しい響きが、ダン・タイ・ソンのしなやかなタッチで紡ぎ出されました。 巨匠ギーゼキングが「ピアノにハンマーがあることを忘れさせてしまう・・・」と、ダン・タイ・ソンのドビュッシーを賛辞したそうですが、まさにその通りだと思います。 どこからか音が聴こえてきたかと思うと、ふっと思い描いた情景が現れ出る...そんな感覚。 ダン・タイ・ソンの指先は、時折、指揮者の様な動きを見せながら、光や影を見事に表現していました。 コンサートで1・2集を聴くのは初めてですが、それがダン・タイ・ソンの演奏で聴けるなんて幸せです。 前奏曲もそうですが、映像も全6曲を勉強していきたい素晴らしい作品だと改めて思いました。 前半の最後はフランクの「前奏曲、コラールとフーガ」。 演奏時間20分という大作です。 3つの部分が切れ目なく演奏され、技術も体力も必要な難曲。 聴く側も容易ではないと思うこの曲ですが、力強い演奏でぐいぐいと惹きつけられます。 流石ですね! 後半はショパンのインプロンプチュ全4曲。 これも演奏会で全部通して聴いたのは初めてです。 ショパン独特の気高く優雅な音楽が流れると、前半とはまた雰囲気が一変し、ダン・タイ・ソンの動きも変わってきます。 即興曲とはいえ、構成がしっかりとしていて美しく、今まであまり弾こうと思った事がない2番や3番も魅力的だと思いました。 第4曲の「幻想即興曲」は、気迫の唸り声と共に情熱的に始まりました。 こちらは私もよく弾きますし、ほとんど耳だこの曲ですが、ダン・タイ・ソンの手にかかると、いつも新鮮で神聖! 「あぁ、ここはこんな風にバス音を出していきながら盛り上げなくちゃ」、「無駄な動きをなくして、ここぞ!という音を瞬発的に出すように研究しなくちゃ」とか、とてもとても勉強になります。
 締めくくりは、スクリャービンのピアノソナタ第5番。 単一楽章ですが、演奏時間15分の大作。 エネルギッシュで見ていても手に汗するような曲でした。 こうして全プログラムを聴き終えると、今日のコンサートの曲目が、とてもドラマティックに構成されていたのだと実感しました。 聴き応え十分ですが、まだ聴きたい! そんな観客の拍手に応えて、アンコールに2曲演奏されました。 バッハの「シシリエンヌ」。 有名な旋律が、このうえなく美しく切なげに歌われ、ジーンとしました。 続いて、ドビュッシーの「雨の庭」。 大好きな曲です。 これがまた本当に素晴らしくて、ただただ感動しました。 やっぱりコンサートは良いなぁと、幸せ一杯で帰路に着きました。

 2004/ 8/ 7 Sat.

サッポロ・ジャズ・フォレスト 2004

場所:札幌芸術の森 野外ステージ   
TRIX:熊谷徳明(ds) 須藤 満(b) 窪田 宏(kb) 平井武士(g)
松永 貴志ジャズトリオ:松永貴志(p) 安カ川 大樹(b) 広瀬 潤次(ds)
マリーナ・ショウ:マリーナ・ショウ(vo) デビッド・ヘイゼルタイン(p.key) ジェフ・チェンバース(b) レニー・ロビンソン(ds)
DIMENSION:増崎 孝司(g) 小野塚 晃(kb) 藤田 一樹(sax) 青木 智仁(b) 石川 雅春(ds)
櫻井哲夫with世良公則:櫻井 哲夫(b) 世良 公則(g) 神本 宗幸(p)
熱帯ジャズ楽団:カルロス管野(perc) 見座 良彦(timb) コスマス・カピッツァ(conga) 神保 彰(ds) 高橋 ゲタ夫(b) 森村 献(p)
佐々木 史郎(tp) 鈴木 正則(tp) 奥村 晶(tp) 木幡 光邦(tp) 中路 英明(tb) 青木 タイセイ(tb) 西田 幹(B.tb)
近藤 和彦(A.sax) 藤陵 雅裕(A,sax) 野々田 万照(T.sax) 宮本 大路(B.sax)

 ヤマハで応募したら、幸運にもペアチケットがで当選しましたので、はじめさんと聴いてきました。 このジャズフェスは初めてですが、今年で6回目になるのですね。 一日で上記のプロのメンバーとアマチュアバンドが出演するというということで、朝から晩まで音楽三昧なフェスティバル。 私たちは、少し遅めに出て午後のプロの部から聴いてきました。 最初のTRIXというバンドから始まったのですが、エレクトーンの雑誌や楽譜でよく見かける窪田 宏さんが出演していてノリノリで派手なバンドでした。 18歳の天才ジャズピアニスト松永 貴志さんのバンドは対照的にシックな感じでしんみり聴かせるという感じでした。 マリーナ・ショウの迫力ある歌声は野外ステージに響き渡って気持ちよかったです。 それからDIMENSIONというバンドは全然知りませんが、雰囲気の良いサウンドで気に入りました。 はじめさんは、途中から彼らの存在に気が付いたらしく、聴けてラッキーだと喜んでいましたし、小さな男の子たちが「DIMENSION」だと叫んでステージに走り寄ったりしていましたから有名なバンドなんですね。 驚いたのは櫻井哲夫with世良公則。 世良公則さんって、あの世良公則さんなの!?と思っていたら、やっぱりそうでした。 凄い人気! 往年のヒット曲を歌いまくりで場内が沸きました。 でも、これってジャズ? 最後はくっちゃんJazzフェスでも聴いた事がある熱帯ジャズ楽団。 出演メンバーを書いただけで、こんなに大勢居るのか!というくらい賑やかな楽団です。 カルロス管野さんのMCは相変わらず楽しく、華やかにラストを締めくくってくれました。

2004/ 8/ 1 Sun.

パシフィック・ミュージック フェスティバル 2004

場所:札幌芸術の森 野外ステージ   
指揮:ワレリー・ゲルギエフ/チェン・ウェンピン
札幌交響楽団/PMFオーケストラ
ヴァイオリン/ニコライ・ズナイダー

 「平和の」といった意味の、パシフィック(paciffic)を名前に持つPMF。 今年で創設15年目を迎え、音楽教育を通じて世界の平和に貢献したいというバーンスタインの願いと情熱がしっかりと継承され、育まれています。 PMFからは、約63カ国、1800名を超える音楽家たちが巣立っていったというのですから凄い事です。
 さて、今年は芸術の森の野外ステージが、バーンスタイン・メモリアルステージとしてリニューアルしましたので、早く見たくてわくわくしていました。 昨年は、この建設のために野外ステージが無くてとても残念でしたので尚更です。 鉄骨とテント張りの仮説ステージから新しく生まれ変わったステージは素晴らしいの一言! 200人規模の演奏が可能なステージで音響も抜群です。 この演奏会が楽しみなあまりに母が気合を入れて作った、10人前はあろうかという程のご馳走を持って、3人で準備万端、会場へ向いました。 もう何回通ったでしょうか、屋外でのコンサートにもすっかり慣れて、テーブル持参で一番前(椅子席の後ろ)を陣取っていたらPMFの関係者の人に、テーブル持参は珍しいと、写真を撮られてしまいました。(^^;
 作曲家コースの2名によるオリジナル作品から演奏が始まりました。 2曲目は作曲者自らが指揮していたのですが、とても初々しく、大拍手に照れまくりで微笑ましかったです。 ブラス・アンサンブルではドビュッシーの「スコットランド行進曲」という曲を初めて聴いたのですが、ドビュッシーにこういう曲があるのですね。 ビゼーの「カルメン」なども華やかな演奏で楽しめました。 続いては、札響による〈オール・バーンスタイン・プログラム〉 「キャンディード」序曲は何度聴いても良いね!とはじめさんは嬉しそうでした。 そして、ラストはゲルギエフ指揮のPMFオーケストラ演奏会です。 先日、前半を聴き逃してしまったコンサートと同じプログラムなのです! 先日聴けなかった曲、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲 二長調。 ソリストには、ゲルギエフとは何度も競演している(とパンフレットに書いてありました)ニコライ・ズナイダー。 私は初めて聴きましたが、彼の激しい演奏に、目が釘付けでした。 ブラボー! そういえば、先日ステージに到着した時も拍手が鳴り止まなかったのを思い出しました。 今日はこの素晴らしい演奏を聴く事が出来て本当に嬉しかったです。 ラストは先日も聴いたショスタコーヴィチの交響曲 第11番「1905年」です。 野外で聴いてもやっぱり素晴らしく、再認識させられたという感じ。 ゲルギエフの情熱が若き音楽家たちに伝わってこちらも興奮して気が付くと場内はスタンディング・オベーションの嵐。 この瞬間は身震いするほど素敵! 花火が打ち上げられて今年もPMFは終りました。 素晴らしい音響の新しいステージに演奏者も聴衆も大満足。 そして、もちろん素敵な先輩達に見守られて育つ若き演奏家の、フレッシュで気合の入った演奏は今年も私を感動させてくれました。 このフェスティバルがいつまでも続く事を心から願います。

2004/ 7/31 Sat.

くっちゃん JAZZ フェスティバル 

場所:くとさんパーク   
アキコ・グレース スーパー東京トリオ
増尾好秋トリオ
本田雅人グループ

 今年はPMFと重なってしまったので行かない予定でしたが、はじめさんが大の増尾好秋さんのファンで、どうしても彼が出演する日は行く!というので、一日だけ聴いてきました。 この日は、すこぶる天気が良く、野外コンサートにはうってつけなのでしょうけれど、北海道らしくない暑さでした。 それでも内地とは10℃くらい違っていたらしいです。 2組のアマチュアバンドの後は小学生のジュニアジャズオーケストラの出演。 とても小学生とは思えない演奏に場内は沸きました。 特にサックスの女の子と、ドラムの男の子は、スーパー小学生といった感じの演奏をしていました。 そして、いよいよプロの出番。 最初はアキコ・グレース スーパー東京トリオ。 都会の喧騒を表現したというオリジナルなど、強い意志でぐいぐい弾く彼女のピアノは暑さをも忘れさせてくれそうでした。 夕方になり、ちょっと涼しくなった頃にお待ちかねの増尾好秋トリオの登場。 彼の奏でるギターは本当に素敵で、はじめさんが、以前CDでロドリーゴのアランフェスを聴いていた時に、気になって、誰が弾いているの?と尋ねた事がありましたっけ。 派手さは感じませんが、心の中にすーっと溶け込んでくるような心地良さを感じます。 はじめさんも生演奏を聴くのは初めてということで、すごく興奮していたようです。 「星に願いを」などスタンダードな曲を中心に演奏されました。 CDより断然心地良くて、涼しい風とマッチして、もう夢心地でした。 最後に甘い声で会場の女性に送りますと歌われたのですが、大ファンのはじめさんは、なんで!という顔をしていたのが可笑しかったです。 それにしても、ミュージシャンって若々しい方が多いですよね。 アンカーは本田雅人グループ。 彼のサックスがまた素晴らしくて聴き惚れてしまいました。 TVで見たこともある、面白い名前のバカボン鈴木さんのベースも凄かったです。 そのバカボンさんのオリジナルの曲、「憧れのヨーロッパ」は最高でした!
最後に本日の出演者全員によるスーパーセッション。 例の小学生二人も参加して、楽しい気分にさせて頂きました。

2004/ 7/30 Fri.

PMFオーケストラ演奏会 

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール   
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
ヴァイオリン:ニコライ・ズナイダー
PMFオーケストラ

 楽しみにしていたゲルギエフ指揮の今日のコンサート。 チケットを取るのも大変苦労したというのに、開演時間を確認せず1時間の遅刻。 到着した時は前半のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲 ニ長調が終って拍手喝采でした。 こんな大失敗は初めての事で、聴く前にすっかり気落ちしてしまいました。 でも、済んでしまったことは仕方がないので、後半を真剣に聴く事に徹しました。
 ステージに登場したゲルギエフはTVで見ているイメージと全然違い、この日はあまりにもきちんとした服装と髪型で、一瞬誰だろうと思いました。 失礼! 曲目はショスタコーヴィチの交響曲第11番 ト短調「1905年」です。 ショスタコーヴィチの曲は、今までにも何度か演奏会で聴いていますが、なかなか最後まで集中して聴けない...平たく言えば途中で飽きてしまう事が多かったです。 今日も演奏時間55分という大曲。 果たして、ゲルギエフ率いる若手楽団はどう演奏するのかと前半聴き逃しているだけに、なんだか挑むような気持ちになっていた私でした。 「1905年」は、ロシア第一革命を題材とた作品です。 この年の1月に、ぺテルブルクの労働者と家族が生活苦を訴えた請願書を持って宮殿へ行進したところ、政府の軍隊に射撃され2000人以上の死傷者が出たというのが「血の日曜日事件」。 これは、それから17年間に渡って続くロシア革命の幕開けでした。 第1楽章「宮殿前広場」は事件の前の静けさが革命歌とともに描写されています。 ゲルギエフが、細かく手を動かしながら、不気味な風(息とも唸りとも思える)を何度もオーケストラに吹きかけます。 第2楽章「1月9日」は事件の日。 痛ましい光景と壮絶な音は大地を揺るがし、人々の叫び声が聞こえてくる音楽。 絶え間ない緊張と絶望感、狂気などが場内を包み、包囲されているような恐怖すら感じます。 第3楽章「永遠の追憶」は犠牲者への鎮魂歌。 ヴィオラが歌うその音色は悲しみに満ち溢れているのですが、甘美で官能的でもあります。 第4楽章「警鐘」。 悲劇に抗議し、革命に向かって立ち上がる民衆。 まるで嵐の様な激しく分厚い音の連続。 鐘が鳴り響き、圧倒的な力となって突き進んでいきます。 再び、ゲルギエフが風を吹きかけ細やかに手を震わせると、ヴァイオリンの細かいヴィブラートが人々の魂を鎮めていくようです。 壮大なストーリーが55分間の音楽の中に込められていました。 そのドラマ、そして物語の語り部(演奏)の素晴らしさに、すっかり引き込まれてしまい、ゲルギエフが指揮を終えると「もう終ったのか」と思う程でした。 それにしても、いくら世界から選りすぐった学生達とはいえ、にわかオケーストラがこれだけの演奏をするとは恐れ入りました。 短期間でここまでに仕立て上げるなんて流石はゲルギエフ。 それに応えた若手音楽家達も本当に素晴らしかった。 「音楽は魂だ」と言うゲルギエフの気迫が、聴くもの演奏するものに伝わって素晴らしい芸術の世界を築いたのだと思い、なんだか凄く興奮してしまいました。 外へ出ると花火が...。 それで開演時間を1時間早めたのですね。 会場の外も今しがた聴いて来た音楽の続きかと思うシチュエーションで、思わず、はじめさんと笑ってしまいました。 本当に凄いオーケストラを聴いたと後半だけで満足しました。 でも、やっぱり前半を聴き逃したのは痛かった!

2004/ 7/12 Mon.

PMFウィーン・アンサンブル演奏会  モーツァルトへのオマージュ

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール   
ヴァイオリン:ヴェルナー・ヒンク/フーベルト・クロイザマー
ヴィオラ:ハンス=ペーター・オクセンホーファー
チェロ:フリッツ・ドレシャル
コントラバス:ヴォルフガング・ギュルトラー
フルート:ヴォルフガング・シュルツ
クラリネット:ぺーター・シュミードル
ファゴット:シュテパン・トゥルノフスキー
ホルン:ギュンター・ヘーグナー

〈モーツアルトへのオマージュ〉ということで、オール・モーツァルト・プログラムの夕べでした。
この日は、コンサート会場へ向かう途中、事故による渋滞でコンサートに間に合うのかと不安でした。 普段は使わない高速を使って、なんとか間に合いました。 そんなこともあり、なんだか落ち着かない気持ちのまま席に着いたのですが、「魔笛」の序曲が始まった途端、音が織り成す美しい世界へ誘われてしまいました! オーケストラで聴くのと違い、指揮者も居ませんし、小編成による演奏なのですが、暖かく美しい調和にうっとり。 クラリネット五重奏曲では、PMFですっかりお馴染みのクラリネット奏者シュミードルさんの素晴らしい演奏に目が行きます。 続いてファゴットとチェロのためのソナタ。 ファゴットとチェロのデュオ演奏は新鮮な気持ちで聴けました。 前半の最後はフルート4重奏曲。 流石の教授陣達の演奏に、大きな拍手が送られました。 後半はディヴェルティメントが2曲。 まずびっくりしたのは、コントラバス奏者。 前半は登場がなかったのですが、とてもとても大きな方で、カーネル・サンダースさん!?と思いました。 大きなコントラバスが小さく見えます。 コントラバスが加わると、音に厚みと深みがでますね。 モーツァルトの音楽には、駆け抜けていくような爽やか風を感じるのですが、軽快な音楽を聴いていると、こちらも楽しい気分になります。 最後の「音楽の戯れ」がまた最高でした。 CDも持っていますが、CDのタイトルは「音楽の冗談」となっています。 ここでは、ホルン奏者が初登場。 このホルンがまさしく「冗談」とも言える調子っぱずれな音で出てくる個所があり、真面目な顔で演奏されているので余計に可笑しく、会場からもクスクスと笑いが。 そうしたら、その曲が終った後に楽器を置いて、ちゃんと楽譜にそう書いてある!というゼスチャーをされました。 「はい存じていますとも。」でもやっぱり可笑しいですよね。  ウィーン・フィルのコンサートマスターである、ヴァイオリンのヴェルナー・ヒンクさんの演奏と動き!?は相変わらず素晴らしいの一言。 初めて、芸術の森で聴いた時から心を奪われた私ですが、縁があって、小樽で聴いたピアニストの遠山慶子さんとのデュオは、感動の嵐でした。 かのバーンスタインも「僕のヒンクちゃん」と呼んでお気に入りだったそうです。 ヒンクさんが全身を使って、指揮をとり輪を作っているのですね。 戯れに戯れて、立ち上がってしまうパフォーマンスも! それがぴったりと息が合って、ただ面白いだけではなく、聴かせて下さるのです。 盛大な拍手でアンコールはディヴェルティメントより「メヌエット」が2曲演奏されました。 心が洗われるコンサートで、モーツァルトって良いね!と、はじめさんも満足そうでした。 

2004/ 6/29 Tue.

ウラディミール・アシュケナージ イタリア・パドヴァ管弦楽団  

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール   
指揮&Piano:ウラディミール・アシュケナージ

 指揮者でもあり、また、偉大なピアニストでもあるアシュケナージ。 CDもたくさん持っていますし、ピアノリサイタルは2回聴いています。 1970年代から徐々に指揮活動を行い、世界第一級オーケストラの指揮を重ね、今年の9月からN響の音楽監督に就任することで話題になっています。 今回は初めてアシュケナージの「弾き振り」を聴く事が出来ました。 弾き振りといえば、昨年ペライアを聴きましたが、その「弾き振り」がよく見える席を今回も選びました。
 最初はモーツァルトの「フィガロの結婚」序曲からです。 小柄なアシュケナージが登場すると、もうお馴染みのという感じで暖かく迎えられました。 そして、颯爽とした音楽が流れ始めました。 爽やかな風を感じる心地良い演奏です。 そういえばオーケストラを聴くのは久しぶりです。 しかも世界第一級のオーケストラを聴けるなんて幸せ、と浸っていると、疾風のごとく序曲は終わり、次は同じくモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。 モーツァルトがもっとも多忙をきわめた1784年の作品だそうです。 いよいよ、アシュケナージが今度はピアノの前に座って指揮を始めます。 きびきびとした指揮からピアノに移りました。 美しい音、清らかで滑らかな流れの中でまとめられ、ぴったりと息の合った美しいハーモニーです。 叙情的な第2楽章。 華やかなフィナーレの第3楽章で堂々と曲が終りました。 それにしても、指揮だけでも凄いし、ソリストのピアニストとしても凄いのに、それを同時に行うなんて私には神業としか思えません! 休憩を挟んでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番 ハ短調。 軽快なモーツァルトに対して重厚な音楽です。 こちらの「弾き振り」がまた一段と素晴らしかった! 長いソロのカデンツに入ると聴衆も楽団の方々も、もううっとり聴き入っていました。 格調高い堂々たる演奏は流石です。 余裕と風格に満ち溢れたベートーヴェン。 こんな演奏会を聴けた事は本当にラッキーだなと思いました。 素晴らしい演奏の後、大きな拍手はやがて一つに揃い、それに合わせて登場するアシュケナージ。 ファンから花束をもらうと「ん〜良い香り!」とその動作ひとつひとつが楽しくて、ますますボルテージはあがりアンコールへの期待が高まります。 しかし、2曲の「弾き振り」に神経を集中したのでしょう。 残念ながら、この日は、アンコールは無しでしたが、充分に満足できた演奏会でした。 

2004/ 6/25 Fri.

スタニスラフ・ブーニン ピアノリサイタル  

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール   
Piano:スタニスラフ・ブーニン

 1985年のショパンコンクールで大きな話題となったブーニン。 「ブーニン現象」と呼ばれるほどの社会現象を巻き起こしました。 初めて聴いたコンサートは昭和天皇が亡くなった昭和64年1月7日と記憶しています。 ということは、あれから16年も経っているのですから、月日の流れとは早いものだとあらためて思い知らされます。
 ブーニンの人気は少しも衰えを見せず、キタラの大ホールがほぼ満員です。 ピアノリサイタルではP席(パイプオルガンのある席)は通常使わないのですが、そこも使用してのコンサートでした。 私は3階席の最後尾の中央の席でした。 先日、サントリーホール(S席)で聴いてきたばかりですが、3階席から聴いていても音はキタラの方が上だなと思いました。 ブーニンの強い希望により、プログラムが変更になり、ショパンの24のプレリュード全曲の予定から、プレリュードは12番までとショパンのバルカローレにになったとの事。
 プログラムはバッハのフランス組曲 第3番から始まりました。 それぞれは短い曲ですが、愛らしい6曲を、ブーニンは実に小気味の良い演奏で聴かせてくれました。 次はベートーヴェンのピアノソナタ第31番です。 フレイエ、ツィメルマンなどの演奏を聴いて以来、この曲に興味を抱いている私ですが、今回もブーニンの叙情溢れる演奏を聴いて一層弾いてみたいと思いました。 柔らかく囁くような優しい音、一瞬にして緊張をもたらすフォルテなど、多彩な表現で前半の演奏が終了しました。 隣の席の方が、終始首を縦に振り続けているので、あまり落ち着いて聴けなっかたのが残念でした。 結局、演奏会の間中それは続き...。 そういう事って注意するのも何ですし、ご自分で気が付いて欲しいなと思います。 さて、気を取り直して(^^;後半はシューマンの花の曲から。 歌曲のようなピアノ曲で可愛らしい曲です。 そして、期待のショパン! 24のプレリュードのうち半分の12曲までしか演奏されないコンサートは初めてですが、ブーニンが演奏すると短い1曲1曲が殊更に短く感じて、もう少し聴いていたい気分にさせられます。 魅力的な演奏に心惹かれました。 第12番のプレストで格好良くフィニッシュ。 お辞儀をしてステージから立ち去る時に、手を痛めたのでしょうか? そんなようなゼスチャーをして、しばらくステージに出ないので、ちょっと場内もざわめきました。 そんな不安も、続くバルカローレの優雅な演奏で「きっと大丈夫ね」と落ち着いた会場ですが、今までの演奏と違いやや浅い?と感じたのは気のせいでしょうか。 アンコールはショパンのマズルカ第5番の愛らしい曲。 何度と無く聴いている、このマズルカにしても今までこんな演奏は聴いたことがありません。 ブーニンにしか演奏できないものなのでしょうね。 大観衆が、まだ弾いて下さい!という熱望の拍手を送りましたが、やはり手を痛めていたのでしょう、花束を持って登場したブーニンは会場にお辞儀して演奏会は終了。  素敵な音楽の魔法が解けたような気がして、ふぅっと溜息が出ました。

2004/ 6/22 Tue.

アンドレ・ワッツ ピアノリサイタル  

場所:サントリーホール  
Piano:アンドレ・ワッツ

 5年ぶりにサントリーホールでワッツのリサイタルを聴きました。 今年58歳になったワッツですが、ピアニストにとっては円熟期、貫禄もついてますますワッツらしい迫力のある演奏でした。
 前半はバッハのカンタータより2曲。 ワッツ自らが編曲した「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」から厳かに始まりました。 とても美しい曲なのですが、音が少し歪んでいる様に感じました。 ピアノの位置が中央よりやや右にあり、この位置が問題なのか、東京の蒸し暑さに耳がおかしくなったかとも思いましたが、主人も同じように感じていたようです。 続いてベートーヴェンのピアノソナタ第7番。 第1楽章はプレストですが、ワッツの演奏はとてもスリリング。 聴いている方も、思わず身を乗り出してしまいます。 近年、積極的にベートーヴェンの作品に取り組んでいるそうですが、ちょっと地味と感じる7番を選曲したのはどんな理由だったのかしら。 次のシューベルトの「3つの小品」(遺作)は、ピアノ曲としての”白鳥の歌”とも言える作品。 こちらも、通好みな曲です。 プログラムの曲目だけで考えれば、わざわざ東京にまで聴きに行こうとは思わないのですが、さすがにワッツ! 前半の演奏終了で、3度もステージコールがありました。 後半は、リゲティ、バルトーク、リストとハンガリーの作曲家の作品でまとめられています。 こちらも通好みというか、私の知っている曲はリストの作品だけです。 リゲティの作品は、第1曲は2音だけ、第2曲は3音、次は4音と、限定した音でリズムにさまざまな変化を加えながら、音楽を発展させていくという、実験的な曲だということで、興味と期待を持って聴きました。 しかし、少し期待はずれで、天性のリズムテクニシャンであるワッツをもってしても、あまり面白みの無いものでした。 しかし、その音に制約のある曲が火をつけたのか、このあたりからステージ上のワッツに変化が現れ、一気に集中力の高まりを感じました。 リゲティの曲を弾き終わると、拍手する間も与えられず、まるで開放されたかのように、分厚い音と強烈なリズムでバルトークの「アレグロ・バルバロ」を弾ききり、リストの「死のチャールダーシュ」になだれ込むように入って行きました。 この曲は初めて聴く曲だったこともあり、まだバルトークが続いているのかと思うような展開でしたが、リスト特有の魔法のような高音で、あぁリストなのだと気がつきました。 時折入る唸り声、まるでサタンがワッツに乗り移ったのかと思うほどの凄まじさで演奏される超難曲の迫真の演奏に、場内はすっかり度肝を抜かれてしまいました。 あまりの熱演に拍手が入りますが、ワッツは手を振って続けたいとサインを送ります。 「調性のないバガテル」、「眠らぬ夜、問いと答え」、「ハンガリー狂詩曲 第13番」と、ここへきてようやく知っている曲に入りました。 最後のハンガリー狂詩曲13番は、リスト自身もよく好んでいた曲だそうです。 この曲は小さい頃からレコードでワッツの演奏を聴いていますが、生演奏で聴くのは初めて。 演奏表現もレコードより、もっと素晴らしくて大変感激しました。 弾き終えた瞬間に割れんばかりの拍手。 熱狂的な拍手にアンコールは2曲。 ショパンのエチュード「エオリアンハープ」で美しく満たされ演奏会が終了しました。 ワッツのコンサートへ出かける度、今度はいつ聴けるかしらと会場を去りがたい気分になります。 久々にワッツらしい演奏を聴いたねと主人も満足そう。 リヒテルと共にヤマハの愛好家と知られているワッツですが、今日は金属音的なスタインウェイの方が良かったのではなどなど話し、サントリーホール隣のテラスガーデンで乾杯して余韻に浸っていました。

2004/ 5/24 Mon.

舘野 泉 ピアノリサイタル  新たな旅へ

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール 
Piano:舘野 泉

 舘野先生の演奏を聴くのは、2001年12月4日以来のことです。 ちょうど演奏活動40周年記念の第3夜でした。 あのコンサートの後、2002年1月9日に先生はフィンランドでのリサイタルで最後の曲の最後の和音を弾いた後、ステージで倒れられたと聞きました。 そして、5日間も意識が戻らなかったそうです。 脳溢血で右半身麻痺。 ピアニストとして再起するのは、右手が目覚め、両手が立派に揃ってからと思われたそうです。 リハビリをして1年半の歳月が経ったとき、ヴァイオリニストの息子、ヤンネさんが留学先のシカゴから帰国された折、お土産として先生の為に持って帰ってきた楽譜、ブリッジの『3つのインプロヴィゼーション』という左手のための曲が先生に転機をもたらしたそうです。 「音楽を表現するのに、手が一本だの二本だのは関係のないこと。 一本でも充分な呼吸が出来、思考や感覚は自由に羽ばたくのである。」(プログラムノートより) と先生は書かれています。 もちろん先生の技量があっての事ですが、両手が自由に動かないと演奏活動はできないという固定観念から開放されて、右手が不自由でも十分に芸術表現が可能なのだという事に気づかれたのでしょう。 そして、今日は私達の前で、みごとにそれを証明してくださいました。 先生の新たな旅にと、作曲家の間宮芳生さんが《風のしるし》を、ノルドグレンさんからは小泉八雲の『怪談』によるバラードUが贈られました。
 コンサートが始まる前、しばらくぶりの舘野先生の演奏、しかも左手だけということで、私はドキドキして落ち着きませんでした。 いよいよコンサートが始まり、先生が少し足を引きずってステージに現れた時、涙が込み上げてきました。 椅子に座って、しばらくして第1音が鳴りました。 それは、いつもの生命力に溢れた生き生きとした音でした! ブラームス編曲によるバッハのシャコンヌ。 野太く深い音です。 何年も何年も時を積み重ねてきた大木を思わせるような、どっしりとした響きは、目をつぶって聴いていると、とても左手一本で弾いているとは思えませんでした。 続くスクリャービンの『左手のための2つの小品』は、ラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲』と並んで左手のために書かれた代表的な曲です。
 大変な難曲で、左手のための曲と知らずに両手で弾いていたピアニスさえ居たとか。 解説によると、名ピアニストでもあったスクリャービンが練習のし過ぎで右手を壊してしまったために書かれたそうです。 それにしても美しい曲でした。 特に2曲目の「夜想曲」が素敵でした。 高音の方へ左手がいくと、右手が弾きたそうにみえました。 時折、右手は指揮者のように左手を導いて一緒に演奏しているようにも見えました。  「弾いていて、手が一本であるか二本であるか、そんなことも忘れてしまうほど音楽の力は大きい。」(プログラムノートより) と先生は書かれていますが、それは聴いていても同じだなと思いました。
 最後に息子さんからのプレゼントの曲、ブリッジの『3つのインプロビゼーション』を先生がひとつひとつ愛情を込めて奏でておられるその姿、音楽に感動して、もう涙が止まらなくなってしまいました。 もう20年くらい先生の演奏を聴いていますが、グラナドスのゴイエスカスを熱く語ってくださった、あの頃の演奏と今も変わりがない! 今、こうして音楽できる喜びが全身から伝わってきて、先生の人間としての強さを改めて知りました。 アンコールも2曲演奏してくださり、実に内容の濃い演奏会でした。 満員の会場から大きな拍手が送られると、会場のお客さん、ひとりひとりに「うん、うん」と、先生も感激していらっしゃるご様子でした。 復活コンサート、本当におめでとうございます!

2004/ 4/11 Sun.

エル・バシャ ピアノリサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール 
Piano:エル・バシャ

 1999年に大ホールでエル・バシャのリサイタルを聴きました。 堂々と貫禄に満ちた演奏と、小品の区切りでの拍手は好まずに弾ききるタイプのピアニストという印象が残っていました。 今回は小ホールでのリサイタルで、より身近に、じっくりと演奏を聴くことができました。 内容もとても素晴らしく、エル・バシャのCDを手に入れるのは難しいという事もあり、私は滅多にしないのですが、会場でCDを2枚も買って、サインまで頂いてきたくらいです。
 プログラムの前半は、ベートーヴェンのソナタ「田園」と「月光」。 小ホールに繊細な音が美しく響きます。 「田園」は、高校生の時に勉強した事を思い出しながら聴き入っていました。 そして、「月光」。 プログラムの解説文によると、詩人のレルシュタープが「スイスのルツェルン湖の月光の波にゆらぐ小船のよう」と云ったのが「月光」の名の由来だとか。 ベートーヴェン自身がつけたタイトルは「幻想風ソナタ」でした。 とてもポピュラーな第1楽章。 しかしこの日の月は、このうえなく幻想的な光を放ち、場内の空気が変わります。 うっとりとしていると小気味のよい第2楽章からあっという間に激しい第3楽章へ。 感動的な演奏に、休憩中に「月光」が入ったCDが売り切れてしまったほどです。 さて、後半は待望のショパンのバラード全4曲です。 ポリーニの演奏会以来です。 ポリーニも素晴らしかったですが、エル・バシャの演奏もまた素晴らしくて、ゆったりと大河のような流れで4曲を堪能しました。 久々に”聴いた!”と充実感を覚えるコンサートでした。 アンコールは可愛らしいベートーヴェンのバガテル。 短い曲が、それまでの荘厳な演奏の後で客席から笑いが出るほどに効果的。 2曲目はショパンのノクターン遺作。 悲しみに満ちた旋律に心打たれます。 最後は、なんとオリジナルの「レバノンの風」という素敵な曲でした。 一見、気難しそうに見えるエル・バシャですが、サインを頂いた時に、とてもにこやかで優しい印象の方でした。 日曜の午後の優雅なコンサートに、家族でハッピーな気持ちになって中島公園を歩いて帰りました。 

2004/ 3/13 Sat.

村井祐児のジャズ&クラシック

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール 
Piano:岡本孝慈/板橋文夫
Clarinetト:村井祐児
Bass:井野信義
Drums:小山彰太

 朝からハードなスケジュールでレッスンがあり、終わってから急いで出かけたのですが、いつもより遅めのスタート時間でしたし、ドリンク付きという特典もあり、スタート前はワインを飲む余裕すらありました。 出演者を知っているわけでもなく、ぶらりと出かけたコンサート。 はじめさんに「どんなコンサート?」と聞かれた時、「おじさん方が集まって音楽するみたいよ」と、つい答えてしまいました。(^-^)
村井祐児さんの「ごあいさつ文」が面白くて、どんな感じなのかしらと、わくわくしました。 「クラシックが段々に溶けていくような、自由になってゆく様を示したい」ということで、前半と後半でピアニストが変わります。 前半は、村井さんのクラリネットと岡本さんのピアノによるクラシックでしたが、ストラヴィンスキーなど斬新な音楽が続いて、最後のモーツァルトだけ、分かりやすい音楽だと私には感じました。 そういえば、こんなにクラリネットを聴くコンサートも初めてです。 後半は、いかにもジャズピアニストという風貌の板橋文夫さんや、ベースやドラムが加わって華やかなステージになりました。 会場も熱心なファンの方が多いのでしょう、楽しそうに、また、真剣に聴き入っていて良い感じでした。 いつもとどこか違う、不思議な魅力のアットホームなコンサートでした。

2004/ 2/22 Sun.

イシュトヴァーン・ラントシュ ピアノリサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール 
ピアノ:イシュトヴァーン・ラントシュ

 学生時代に、習っていた先生の聴講生として、ラントシュ先生の公開レッスンや小樽でのリサイタルを聴いた事があります。 今回はそれ以来のコンサートです。
 札幌コンサートホールでは、毎年、ハンガリー・ブダペストから偉大な音楽家を講師とするセミナーが開かれていまして、ラントシュ先生(元・リスト音楽院学長。現在、同音楽院ピアノ科主任教授)は初回から参加されているとのことです。
 プログラムの最初はベートーヴェンのピアノソナタ第7番。 パンフレットの解説文を読んで、はじめさんが、ちょっと驚いたように私に話しかけました。 この曲が「未熟な学習者の手垢にまみれるような作品」と書かれていた事です。 確かに、私も、この曲を弾いた高校生の頃は未熟な学生ではありましたが、学習者や作曲者の気持ちに対する配慮が欠けている表現の様に思えました。
 ラントシュ先生の豪快でかつ繊細な音で第4楽章まで一気に聴いた後は、晩年のリストの作品「暗い雲」、「悲しみのゴンドラ第2番」と続きます。 やや地味な印象の2曲の後に一転して華やかな印象のメフィスト・ワルツ第2番で前半は終了。 三全音の悪魔的音程が魅力のこの曲は第1番と共に好きな曲です。 はじめさんもよく聴いているお気に入りの曲です。 こういう曲を聴いた後は、いつも決まって「今度、弾いてね」と簡単に言われるのにはちょっと困りものです。(^^;
 後半はムソルグスキーの「展覧会の絵」。 これまで何人もの演奏を聴いていますし、大好きな曲ですので楽しみでした。 30分もの大曲ですが、母が「30分があっという間だった」と言うくらい、魅力的な曲です。
 本当に、あっという間に最後の「キエフの大門」にたどり着いてしまうように感じるのですが、演奏する側としては、相当なスタミナを要求されますよね。
 全体的な演奏の印象ですが、マナーの悪いお客さんが多くて集中できなかったのかもしれません。 クリアーな音だけに不協和音が目立っていました。 演奏者と聴衆が一体となって初めて感動が生まれてくるのがコンサートの醍醐味のように思います。 そういう点で今日のコンサートは少し残念なコンサートでした。

2004/ 2/14 Sat.

バレンタインコンサート 大作曲家の世界 〜オーケストラ名曲集を楽しもう〜

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール 
指揮:井上道義
管弦楽団:札幌交響楽団

 偉大な作曲家が残した名曲の中から、バレンタインの夜にふさわしい曲を選りすぐって演奏された素敵なコンサートでした。 指揮者の井上道義さんの指揮ぶりも是非拝見したかったので一石二鳥でした。
第1部のテーマは<恋人達に捧げるメロディ>。 冒頭はブラームスの「交響曲第3番より第3楽章」。 ブラームスならではの重厚な音楽で大好きな曲です。 美しく切ないメロディーが心に染み渡ります。 次の曲へのセッティングもあって演奏の合間に井上道義さんのお話が入るのですが、曲の解説がユニークでとても楽しかったです。 マスネの「タイスの瞑想曲」ではコンサートマスターの方が、そして、モーツァルトの「クラリネット協奏曲」では首席の方がそれぞれ指揮者の前で演奏されました。 演奏後に井上道義さんが「気持ちが良かったですか?」と質問されていましたが、お二人ともかなり緊張されていたらしく、「今でも足が震えています」と答えていました。そんなアットホームな会話もまた今日の日にふさわしいような気がしました。サン=サーンスの「白鳥」では井上道義さん自らピアノ伴奏されました。 ゆったりとチェロが歌い上げるこの曲は、本当に美しい世界に浸れる名曲ですよね。 後半は迫力に満ちた<オーケストラの醍醐味>という内容で、マーラーの「交響曲第5番より 第4楽章アダージェット」。 映画「ヴェニスに死す」でも用いられた、とっても美しいマーラーの傑作です。 夢心地の後は、バルトークの「管弦楽のための協奏曲」。 演奏前の解説で、特徴的なジャズっぽいフレーズを各楽器に少しづつ演奏してくださいました。 井上道義さんに急に「ちょっと吹いてみて」と言われた方が、ちょっと焦って演奏されている様子や、その揺れたメロディーに合わせて踊る井上道義さんがユーモラスでフレーズが印象に残ります。初めて聴く曲ですが、事前にこんな風にフレーズを説明してもらったので、とても楽しめました。 さぁ、ラストはお待ちかねのラヴェルの「ボレロ」! 突然会場が暗転。 停電かとびっくりしましたが、静かにあの特徴あるフレーズで演奏が始まると、指揮者とフルートにスポットがあたっています。 そして曲に合わせて少しづつ照らされる楽器を増やしながら明るさを増していきました。 まさにボレロという曲にぴったりの演出ですが、実際こんな風な演出で聴くのは初めてでした。 ところで演奏が始まって間もなく、冒頭から次第に迫力を増してくる小太鼓が見当たらない事に気づきました。 音はすれども姿が見えず。 「小太鼓はいずこ?」とキョロキョロしていたら、それに気づいたはじめさんが、「ほらあそこ」と目で教えてくれました。 なんと舞台の中央でたった一人で演奏されているのです。 最初から最後まで全く同じリズムを巨大なクレッシェンド1つで演奏する小太鼓。 簡単そうでいて実はとっても難しいそうです。 その小太鼓のひたむきな演奏を軸として、次第に熱くなり盛り上がるオーケストラの演奏は、単純な曲なのに何度聴いても飽きる事のない迫力と、そしてエンディングで一気に爆発する爽快感があります。 井上道義さんのぐいぐい音を引っ張り出す指揮ぶりも、そして、それに応える楽団の方々も素晴らしかったです。 まさにクライマックスにふさわしい曲ですね。 アンコールはオリジナルでしょうか? 演奏前に、「会場の中に今日が誕生日の人居ますか?」と井上さんが聞かれると一人いらっしゃいました。 「それでは貴方の為に演奏します」と始まったその曲は、ボレロの演奏がまた始まったのかと思う出だしなのですが、良く聴くと(いや...そんなに良く聴かなくても)ハッピーバスデートゥーユーのメロディがボレロのリズムに乗っているのです。終演後張り出された曲目には、「誕生日ボレロ」と書かれていました。 久々のキタラでのコンサートは、最後の最後まで楽しくて、あったかいコンサートでした。  


これ以前のコンサートノート