2009/ 7/23 Thu.
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:アンドレ・ワッツ
PMF IP(インタナショナル・プリンシバルズ)
PMF IP(インターナショナル・プリンシバルズ)は、北米、日本の主要オーケストラの主席奏者達です。
そのメンバーとワッツの競演という粋なコンサート。 とても貴重な企画で、本当に感謝と感激でいっぱいです。
この日はJRで出かけ、札幌駅からコンサート会場のある中島公園まで歩いていきました。大通りのビアガーデンに立ち寄って行こうかなとも思いましたが、やめておきました。
プログラムの最初はジョリヴェ作曲 フルートとバスーン、ハープのための「クリスマスのパストラール」。 "星"、"東方の三賢人"、"聖母マリアと幼子イエス"、"イエスの生誕と羊飼いのおどり" の4曲から成る作品からでした。 美しい調べで、夏の夜の優雅で贅沢な時間が流れていく感じでした。 続いて、イベール作曲、フルートとヴァイオリン、ハープのための2つの間奏曲。 アンダンテ エスプレッシヴォ、アレグロ ヴィーヴォの2曲から成る作品。 この日の席は前から2列目の中央でしたが、こんなにに間近で奏者の演奏が聴けるのは面白く、とても貴重な経験でした。
さて、いよいよワッツの登場。 モーツァルト作曲、フルートと木管のための五重奏曲 変ホ長調 K.452です。 第1楽章 ラルゴ アレグロ モデラート ゆったりとした曲調から躍動的なテンポに変わっていくのですが、ワッツが奏者の影に隠れて見えないのです。 このコンサートばかりは、もう少し後ろの席にしておけばと思いました。 ワッツの軽やかで明るい音と、フレーズフレーズで動く手は見えました。 第2楽章 ラルゲット 第3楽章 ロンド:アレグレット 流石にPMF
IPとワッツのアンサンブル。 それぞれ違う場所で忙しく活躍されているのに、ぴったりと息の合ったアンサンブルです。 音楽って、どんな垣根も越えてしまう魔法のようなものだと思いました。 演奏が終わると、ワッツもIPメンバーも、とても楽しそうでした。 リサイタルの時の表情とまるで違い、ワッツ自身も心から彼らとの演奏を楽しんでいるようでした。 休憩中に右側2席が空いていたので移ってみましたが、あまり変わらなかったです。 隣に座っていた婦人がワッツのリサイタルは札幌市民会館以来だとお話されましたが、私もそのコンサートには行っていますので懐かしかったです。 プログラムの後半はシューベルトのピアノ五重奏「ます」です。 第5楽章まである大作です。 鱒って元気の良い魚ですよね。 そんな溌剌とした感じがイ長調なのかも知れません。 歌曲王シューベルトの名曲である「鱒」は、学生の時にドイツ語で歌いました。 楽しい歌ですが、伴奏が難しかったのを覚えています。 そんな事を思い出しながら贅沢なひとときを堪能しました。
2009/ 7/18 Sat.
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮:シエン・ジャン
ピアノ:アンドレ・ワッツ
PMFオーケストラ
PMFは今年20周年記念。 第1回の夏の野外コンサートでバーンスタインを見た事を未だに鮮明に覚えていま。 あれから20年経ったのだという事が信じられない程ですが、時は確実に刻まれ、多くの素晴らしいアーティストの演奏を聴かせて頂きました。 さて、今宵は話題の女性指揮者シエン・ジャンとワッツの競演を聴いてきました。 PMFで女性指揮者を招くのは2回目なのだそうです。 シエン・ジャン氏は「ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団」の音楽監督で、イタリアのオーケストラで女性が音楽監督に就くのは初めての事だとか。 演目は絢爛豪華なベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」。 何度も聴いている名曲ですが、今宵はワッツの演奏という事で格別な気分。 席は誰にも邪魔される事なく観たかったので最前列の中央をとりました。 迫力満点! 貫禄のある堂々たる演奏を堪能させて頂きました。 ソロリサイタルの時は若干表情が硬かったように思いましたが、この日は圧倒的な演奏で会場が沸きました。 尋常ではない細かいペダル、細部に行き渡る深い表現。 若きオーケストラをぐんぐんリードして、躍動的な音の世界に導かれました。 熱い演奏でした。 バーンスタインに見出されてセンセーショナルなデビューを果たし、以来第一線で活躍を続けて来たワッツの演奏を、2度もPMFで聴けた今年は感謝でいっぱいです。 休憩を挟んで後半はラヴェルの「ラ・ヴァルス」から。 オーケストラの演奏や、ピアノソロの演奏として何度か聴いている華やかで色彩豊かな曲です。 はじめさんもお気に入りの曲のようで、洗練された音楽に酔いしれていたようです。 最後はストラヴィンスキーの「火の鳥」。 最前列に座っていたので、指揮者のシエン・ジャンさんの靴がよく見えました。 ヒールのある黒い靴なのですが、赤い絨毯が敷いてある指揮台の上で華麗にタクトを振ると、音楽と相まって赤く見えました。 演奏会後、20周年を記念して「ミート・ザ・アーティスト」という企画がありました。 無料で、参加希望が多い場合は抽選との事だったのですが、運良く参加できることとなりました。 シエン・ジャンさんはロビーで見ると小柄な方でした。 舞台の上で大きく見えるのは流石だなと思いました。 お目当てのワッツは、流石にお疲れの様子で、すぐ会場から姿が見えなくなったのですが、一緒に写真を撮りたいという人が多く、係りの人が呼び戻して下さって、私もドキドキしながら記念撮影をお願いしました。 クラリネットのシュミードルさん、それから氏のマネージャーの方とも楽しく過ごさせて頂き大変感激しました。 ありがとうございます! 実は、翌日も同じプログラムを芸術の森 野外コンサートで聴ける予定で、この日は札幌のホテルに泊まったのですが、残念な事に雨天で中止となってしまいました。 もう一度聴きたかったです。 雨天でも演奏できる会場にならないかしら。 本当に残念でしたが、今年のPMFのプログラムはまだ残っていて、ワッツの演奏も2回聴けますので楽しみにしたいと思います。
2009/ 7/14 Tue.
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:アンドレ・ワッツ
ワッツとの出会いは、中学の時、習っていたピアノの先生にお気に入りのレコードを聴かせていただいたのがきっかけでした。
その中でも"ラ・カンパネラ"は素晴らしく、先生も「生演奏を聴いてみたい」と熱く語っていらしたので、私も聴いてみたいと思いました。
初めてワッツの演奏を聴いたのは確か高校3年生だったと思います。 以来、もう何回聴いているか分からない程、一番長く聴いているピアニストです。
ピアノリサイタルを聴くのは2年ぶり。 札幌ではPMFに参加された1997年以来です。
今回はPMF2回目の参加で、PMF20周年の中の公演でした。
このリサイタルを皮切りにピアノコンチェルト「皇帝」、インターナショナル・プリンシパルズとの共演と続くので、嬉しくて嬉しくてワクワクしていました!
さて、プログラムですが、”18世紀末から19世紀初頭にかけてウィーンには4人の大作曲家が相次いで登場していた。” というテーマで、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの作品からの演奏でした。今回はリストが全く入っていないのが残念でしたが、そんな私の胸中を察してか「ワッツが弾くと何でも面白いからなぁ」と隣に座っていた
はじめさんが呟きました。
私たちは中央の前から2列目の席でしたが、運が良いことに私たちの前の2席が空いていて、とてもよく見える席でした。
まずは、ハイドンのピアノソナタ第58番 ハ長調からです。 いつものように颯爽とステージに登場したワッツは椅子に座るとすぐに弾き始めました。 粒立ちの良い、明快な音で小気味の良い演奏はワッツならでは。 無駄なく軽々と、そして尋常でない程、細やかなペダリングには、はじめさんも驚いていました。 第2楽章までの比較的短いソナタの後は、モーツァルトのロンド ニ長調とイ短調。 この組み合わせは、ワッツのリサイタルで聴くのは数回目になると思います。 長年ワッツを聴いていて思うのはレパートリーを無闇に広げず、じっくり取り組み、その曲の本質と向き合っているかのように感じることです。 続いて、ベートーヴェンのピアノソナタ第7番ニ長調。 学生の頃に勉強したヴェートーベン初期の作品で、どちらかというと地味な曲ですが、何故か最近、コンサートで取り上げる巨匠が多いのは不思議に思います。 終楽章はちょっと可愛らしい感じで、はじめさんは帰りの車の中で口ずさんでました ベートーヴェンのピアノソナタを再開したら、7番から弾こうかなと少し思いました。
後半は、ワッツがライフワークにしているシューベルト。 楽興の時 作品94から3曲。 有名な3番はワッツが弾くと大きな子供が楽しそうにピアノと戯れているようにみえます。 もう何年も前の事になりますが、ワッツがシューベルトに着手した頃の演奏は音楽評論家には高く評価されていましたが、私にはピンと来なくて少々物足りなく思っていました。 シューベルトを好んで演奏しないからなのでしょうか....。 同じ頃に舘野先生がシューベルトのソナタ全曲演奏を行っていましたが、舘野先生のシューベルトは自然体で聴けるのになぁなどと不思議に思った事を思い出しながら聴いていました。 60歳を超えたワッツのシューベルトは今や余裕で貫禄の演奏です。 シューベルトは若くして亡くなった作曲家ですが、彼の曲を自然体で演奏できるのって、年齢を重ねないと難しいのかしら? 最後は幻想曲ハ長調「さすらい人」。 シューベルトは苦手の私ですが、この曲は大のお気に入りです。 後にリストがロ短調ソナタを書いた時に大きな影響を与えた曲。 あまりにも難曲で作曲者のシューベルト自身、弾きこなせず、「悪魔にでも弾かせろ!」と言ったのは有名な話です。 ワッツの演奏は97年のPMFでのリサイタルでも聴いていますが、深い感銘を受けました。 その時は、ショパンのファンタジーも演奏され「幻想曲の競演」でした。 今年は秋に東京のオペラシティでリストのロ短調ソナタと共に演奏されるそうです。 今宵の「さすらい人」は本当に素晴らしかったです。 構成力の素晴らしさ、技巧的なのに、それを感じさせないゆとりのある演奏、そして、なんといっても歌曲王シューベルトならではの歌に溢れた演奏で、うっとりとして聴いていました。 はじめさんは「同じ曲なのにゲキチとは対照的だね」と言っていました。 どちらも魅力的な演奏ですよ。 ブラボー!と大きな拍手でアンコールを要求する聴衆。 もちろん私も! ワッツは椅子に座ってから、しばし考え中のようでした。 しばらくして会場にはショパンのエチュード「エオリアンハープ」の柔らかく美しい音で満たされました。 この曲も何度も聴いていますが、今宵はまた格別に美しい! 同じ曲でも、その時、その時に感じる想いは違うのですよね。 そんな沢山の想いが重なって涙が溢れてきました。 また大きな拍手が続き、2曲目はショパンのノクターン7番。 アンコールでワッツが演奏するのは珍しい曲でした。 夢のような美しいエオリアンハープの後に、哲学的で情熱的なこの曲はお互いの魅力が際立ち素敵だなと思いました。 その証拠に、ショパンはあまり好きではない
はじめさんですが感嘆のため息をつきました。 ソロリサイタルは今度いつ聴けるかわかりませんが、札幌ではワッツの演奏がしばらく続くので楽しみです。
2008/ 11/26 Wed.
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:ファジル・サイ
ファジル・サイの存在を知ったのは、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を独りで多重録音して作りあげたCDを聴いてからです。 毎年、夏に開催される夏の風物詩であるPMFで、この難曲に挑むという記事を読んで、はじめさんが購入したものです。 すぐ車の中で聴いたのですが、あまりの凄まじさに2人で絶句したのを覚えています。 どうやって演奏してるの!? そして、初めて彼の演奏を目の当たりに出来るチャンスがやってきました。 会場へ向かう中島公園の歩道がツルツルのスケートリンク場みたいになっていて、時間が無いのに大変でした。 冷や汗をかいて会場へ入ると今度は暑くて汗が出ます。 この時期の温度調整は大変で私は薄着にジャケットで対策しています。 前置きが長くなりました。 キタラにしては珍しく、開演時間を少し過ぎてファジル・サイが登場しました。 一体どんな演奏なのか、もう興味津々! 最初の曲はハイドンのソナタハ長調。 あのソナタアルバム第1巻の最初に載っている曲です。 私は結構好きでよく練習していました。 ファジル・サイの演奏は生き生きとしていて、歌に溢れ、まるで指揮をしながら演奏しているかのようです。 彼の周りには沢山のオーケストラが存在しているかのよう。 シンプルな音楽なのに多彩な音が会場を満たしました。 はじめさんも生き生きとした表情で聴き入っていました。 「うん、面白い!」。 確かに面白い演奏で楽しい気分にさせてくれました。 それにインパクトが強い。 続いてプログラムに一部変更があり、ムソルグスキーの「展覧会の絵」。 さて、この大曲をどう演奏するのでしょうか。 今日ではあまりにも有名な曲で、コンサートでも何度も聴いていますが、ムソルグスキーが生存していた頃には評価が低く、ラヴェルがオーケストラ版に編曲して脚光を浴びた曲ですよね。 でも、この話を知ったのは「ピアノぴあ」の解説を聞いてからの事で、ちょっとショックを受けました。 そんな事を思いながら聴いていましたが、ファジル・サイの演奏はとても個性的な演奏です。 テクニックとか音色とかを思う以前に、もの凄く雄弁に語りかけて歌いかけてきます。 いつものように、あっという間に「キエフの大門」にはきませんでした。 一音一音に深みがあるので、それを受け止めるのに大袈裟かも知れませんが、ある意味必死でした。 大迫力で前半終了。 聴き応えがあります。 休憩中は何も飲まずに早く席に着いて後半に挑みます。 自作曲 Insaide Serail(後宮の中で)という曲でした。 ファンタジーに富んだ美しい曲で、鐘のような音が鳴り響いたり、音の重なりが素敵で印象派の音楽を聴いているようでした。 次の曲がラヴェルのソナチネだったので、プログラム順を変えたのは効果的だったように感じました。 そして、このラヴェルが鳥肌が立つほど美しかったです。 儚げで優しくて。 素敵な演奏でした。 最後はプロコフィエフのピアノソナタ第7番「戦争ソナタ」です。 譜めくりの人と一緒に登場。 へぇ、こんな人でも楽譜を見るのかと思いました。 舞台が一転!先ほどまでの儚げで優しい音は掻き消され緊張感に包まれました。 それなのに会場では第2楽章で鼾をかいて寝ている人が居ました。 信じられません。 気づいて起きたのでしょう、第3楽章に入る直前、信じられないような静寂な会場になっていました。 高度な演奏技術を要する第3楽章。 奇才!天才!ファジル・サイ!のキャッチフレーズが有名らしいですが、その通りでした。 いつものピアノリサイタルとちょっと違う雰囲気があります。 「ファジル・サイって、ピアノおたくみたいだよね」と、はじめさんが言いますが、本当にそんな感じのピアニストです。 音に物凄く拘っていて、自分のやりたい音楽を作り上げていくというスタイルが強烈。 だから、いつものようにピアノリサイタルを聴きに来たという感じでは無いのです。 それが受けたか受けなかったかは分かれると思いますが、私は面白かったです。 そんな受けた観客が熱烈にアンコールを要求します。 ブラック・アースという自作曲でした。 ジャズピアノでよく見る光景ですが、ピアノの弦を押さえて弾くのがお気に入りのようです。 シンプルなメロディーが、耳に残る印象的な曲でした。 続いて、冬なのに何故か「サマー・タイム」。 一気にジャズの世界に入りました。 3曲目は真面目に「トルコマーチ」を弾きだしたので可笑しかったですが、やはりリピートでジャズに持って行きます。 その乗りが面白くて格好良かった。 帰りはツルツルの歩道も彼のピアノを聴いた後では、ちょっと平気でした。
2008/ 6/26 Thu.
場所:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館コンサートホール
ピアノ:ケマル・ゲキチ
このコンサートを聴くために、フェリーで新潟へ行ってきました。 観光を兼ねてですが、小樽港から乗れますし、新潟には翌朝到着しますので、たまにはこういう企画も良いかなと思いました。
新潟港には早朝6時に到着、ワイナリーなどを観光してのコンサートでしたから、眠ってしまうかも?と、ちょっと心配だったのですが、ゲキチ氏の演奏は眠る事など許してはくれませんでした! マエストロの演奏は何度か聴いていますが、今宵は最高に冴えた演奏で、新潟まで出向いた甲斐がありました。 ゲキチ氏は、何でも弾けてしまうとも思える、凄いピアニストですが、特にリストの演奏には定評があります。 音楽史上最高といえるほどの優れたピアニストでもあったリストは、超絶技巧をひけらかす音楽家として誤解されることが少なくないとゲキチ氏はおっしゃっています。 しかしながら、リストの音楽に実際向き合ってみると、単に難しいというだけでない音楽的な魅力にどっぷり浸かってしまって、弾けば弾くほどに、更にリストの事を知りたくなってしまうのです。 そのきっかけを与えて下さったのが、ゲキチ氏でした。
新潟の「りゅーとぴあ」は初めてのコンサートホールです。 2000人もの人が入る大きな、そして立派なホールでした。 そのホールが、なんと巨大な建物の中にすっぽりと納まっているのです。 新潟って、凄い所なのですね。 かなり驚きました! しかし、前の方の席を取ってしまった私は、限りなく後悔しました。 段差が無く、前の人の頭で、すぐ前に居るはずのゲキチ氏の演奏が見えないのです。 前の人も見えないようで、首を思い切り曲げて見ていました。 それを避けて見ようとすると非常に首が疲れて、演奏が素晴らしけかっただけに、この席に座った事をもの凄く後悔しました。
プログラムは「2つの伝説」から始まりました。 1曲目の「小鳥に説教するアュシジの聖フランチェスコ」は、印象派を思わせるような色彩で奏でられます。 2曲目の「水の上を渡るパオラの聖フランチェスコ」は、いつか弾いてみたい曲ですが、ゲキチ氏の演奏は凄まじい轟音で、逆巻く波の動きをダイナミックに表現していて、のっけから圧倒されてしまいました。
続いてロッシーニの「音楽の夜会」より、「ゴンドラでの小散歩」と「踊り」。この曲を聴くのは初めてです。 パヴァロッティやバルトリなどの有名な歌手によって歌われることがほとんどで、ピアノで弾かれる事は滅多ないそうですが、この2曲の組み合わせがまた良くて、隣に座っていた、はじめさんの目が、まるで少年のように輝いているのを私は見落としませんでした。 前半の最後はソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」。 リストセミナーに参加した際に、ゲキチ氏が最初に演奏して下さった、強烈なインパクトを持った曲です。 壮絶な絵画的世界を題材とした長大なストーリーを見事に演奏しきったマエストロ、ゲキチ氏。
相変わらず聴き応えたっぷりで素晴らしい演奏でした。
後半です。 「詩的で宗教的な調べ」より第7番。 全10曲からなる「瞑想詩集」です。 ショパンの死を悼んでいるとも言われている、悲痛で激しいこの7番は個人的には好きな曲ですが、まだ勉強した事はありません。 他の曲も興味があるので、今後の勉強にと思っています。 次のシューベルトの歌曲集より「アヴェ・マリア」、「セレナード」、「魔王」は、プログラム中、最もよく聴かれる曲だったと思います。 ゲキチ氏の得意とする曲ばかりで、コンサートでも何回か聴いていますが、プログラム構成が素晴らしいうえに、今宵のゲキチ氏は乗りに乗っているので、新鮮な印象で、すっかり歌の世界に没頭してしまいました。 最後は「ハンガリー狂詩曲」 第9番「ぺシュトの謝肉祭」。 超絶的なピアノテクニックが披露される曲ですが、まるでリストが乗り移っているのはないかと思うほどの演奏です。 独特の付点リズムの力強い音で華やかに演奏されるコーダは、人々が踊り狂う様子が目に浮かんでくるようです。 いやぁ、本当に素晴らしい演奏の数々。 隣のはじめさんは、曲が終わるたびに感嘆のため息をついていました。 会場も熱気を帯びて「ブラボーー!」と拍手の嵐。
さて、ここからが更に凄かった! まず、アンコールの1曲目。 「ちょっと簡単なもの(something easier)を弾くよ」と言って、「半音階的大ギャロップ」を演奏されました。 たった今、ペシュトを弾いたばかりだというのに....。 これまた凄いとしか言いようがなく、鍵盤の上を自由自在に動き回る指を見ようと必死で、私は前の人の頭が邪魔で首が痛くなりました。(^^; 「次は少し難しい曲(something
dificult)」と言って、ショパンのエチュード25-7。 ゲキチ氏のお得意の曲でよく演奏されますが、私が聴くのは紀尾井ホールでのアンコール以来です。 今度は情感たっぷり。 哀しみと激しさと優しさといった情感に包まれていました。 熱い拍手に応えて何度もステージに出てきてくれるマエストロ。 ショパンのエチュードが止まらない。 なんという幸せ! 25-1、10-8、10-6、25-12。 どれもレコーディングを兼ねているのかと思うほどのクオリティの高い演奏。 大サービスの最後はリストの「コンソレーション」第3番で締めくくられました。 天上の音楽。 全ての悩みが癒されるような音に、「もうこのまま北海道へ帰っても良い!」と、大興奮のはじめさん。 本当にこんな素晴らしいコンサートを聴けて感激いたしました。 まだまだ続く演奏会もきっと素晴らしく、各地でセンセーショナルな演奏を披露される事でしょう。
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
トーク&ピアノ:池辺晋一郎
ピアノ:上杉春雄
ソプラノ:中丸三千繪
ずいぶんと間があいて、半年ぶりのコンサートです。
この日は朝早くから札幌へ出かけ人間ドッグを受診しました。 午後からは問診を受けショッピングしたりなどして疲れていて、演奏中に眠ってしまうのではないかと心配でしたが、楽しいコンサートでした。
前回2006年の《モーツァルトの秘密》の後に次はベートーヴェンをやろうと決めていらっしゃったそうです。
第1部は、池辺晋一郎さんがまずステージに登場。 お馴染みの軽妙なトークで会場を沸かせます。 ベートーヴェンは「"調"にもの凄いこだわりを持っていた」というお話などを興味深く拝聴しました。 それにしても200年余りにわたって今尚、人々の心を魅了するベートーヴェンは、本当に偉大な音楽家だと思います。 続いて、いよいよピアニスト上杉氏の登場。 曲は「ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15 第1楽章」です。 2台のピアノで演奏されたのですが、ピアノのパートは上杉氏が担当。 そして、オーケストラのパートは池辺氏が担当しました。 池辺氏は、本当はオーケストラの譜面で演奏されたかったとの事ですが、オケ譜だとページ数が多くなって譜めくりが大変だとの事で、2台の演奏用にご自身でアレンジされた譜面を(気分で?)適当に変えながら演奏しますとの事でした。 流石作曲家といったところでしょうけど、さらりとそういう事を言える人って凄いなぁと思います。 ベートーヴェンらしく、ハ長調の、若々しく元気で自信に満ち溢れた作品でした。 次に友情出演のソプラノ歌手、中丸三千繪さんの登場です。 最初はベートーヴェンの「君を愛す」を歌われましたが、その後は池辺さんの作品を2曲。 特に「恋する猫のセレナード」の、にゃにゃにゃーんには会場も受けまくり。 しかし、歌詞がよく聴き取れないのは歌が上手すぎるからなのか座席の関係からなのかと、はじめさんは言っていました。 私も"にゃにゃにゃーん"は聴き取れましたが、それ以外の歌詞はほとんど聴き取れなかったです。 上杉氏がトークでおっしゃっていたように、今回のテーマであるベートーヴェンからどんどん離れていくのが気になりましたが、小さい子が身を乗り出して聴き入っているところをみたら、歌はダイレクトに人の心に訴えかけるものがあるのだなと思いました。 6曲の後にアンコールが1曲あり、前半終了時点で午後8時を軽く超えていました。
第2部で、なんとかベートーヴェンに戻ります。 上杉氏のピアノソロによる「自作主題による6つの変奏曲 ヘ長調 作品34」。この曲は初めて聴きましたが、難聴での苦しみの中で書いた有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」から、わずか2週間後にこの作品が完成されたそうです。 この曲を聴いていると暗い影は全く感じられず、前向きに生きていこうとする、また新しい音楽を作るという強い意志が感じられ、ベートーヴェンの心の強さを感じます。 続いてピアノソナタ ハ長調 第21番「ワルトシュタイン」 作品53。 絶望から復活したベートーヴェンは、その後10年間にわたり次々と傑作を書き続けました。 「創造の時代」と言われているそうです。 このソナタにも勢いが感じられます。 ベートーヴェンを経済面、精神面でささえたワルトシュタイン伯爵に献呈された曲ですが、この曲は、エラール社からプレゼントされた、最新型ピアノで作曲された最初の曲だそうです。 最新型ピアノは、音域、音量、そしてペダルといった様々な点で改良がほどこされていて、その輝かしい音、素早く反応する鍵盤にベートーヴェンは歓喜してたそうです。 それでこの曲からは、そういうベートーヴェンの興奮と言い知れぬパワーが感じられます。 特に第1楽章が好きですが、「大地の鼓動」と言われているそうです。 なるほど! そして夜明けのような主題から始まる第2楽章は「オーロラ」。 ロンド形式で書かれ、いくつもの葛藤を経て高い次元にたどり着くベートーヴェンの音楽は聴いている者を虜にしてしまいます。 上杉氏の演奏はとても綺麗で丁寧でした。 この曲の大ファンであるはじめさんは「良いねぇ。自然体で」と感想を述べていましたが、個人的にはもう少し"熱い"演奏が好みですが、上杉氏のお人柄なのか温かさが伝わってくる演奏も、ちょっと不思議で、興味深かったです。 プログラムの最後は「エグモント序曲」作品84。 池辺さんと上杉さんの連弾で演奏されました。 敬愛するゲーテの「エグモント」に音楽をつけたものだそうですが、1810年にベートーヴェン自身の指揮で初演されたそうです。 華やかな序曲で今宵の幕は閉じられました。 序曲で幕を閉じるというのも、池辺氏一流の洒落といったところでしょうか。 素敵なコンサートに、早朝からの疲れも癒され、またまた音楽の持つパワーを心から感じました。
2007/12/20 Thu.
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:及川浩治
右足を大怪我して、このコンサートは諦めていたのですが、キタラと主催のオフィスワンのご好意で、車椅子でコンサートを聴くことができました。
こんな事は初めての経験です。 札幌でも及川さんの人気は高いようで、大勢の人が集まりました。 そんな中を慣れない車椅子で通っていくのは、ちょっとおっかなびっくりでしたが、皆さん、とても親切で、大変ありがたかったです。 昨年はオールショパンで大いに会場を盛り上げた及川さんですが、今回はオールベートーヴェン。 私もバレンボイムの影響もあり、目下、勉強中ですので期待は高まります。
プログラムの初めはピアノソナタ第3番 ハ長調から。 溌剌とした音が会場に流れます。 きらびやかな第1楽章が終わって、及川さんが椅子の高さを調整した時、拍手がありましたが、及川さんはゼスチャーで、まだ曲の途中だからと合図していました。 そんな雰囲気を作っていくのも大切だなぁと感じました。 初期の作品の中で1,2を争う難しい曲だと思いますが、のびのびとしてダイナミックな演奏に、今度は会場全体から大きな拍手がありました。 続いて第14番「月光」。 ベートーヴェンが付けたタイトルは「幻想曲的ソナタ」ですが、確かに「月光」の方がロマンティックですね。 タイトルを付けた人は音楽評論家レルシュタープで「スイスのルツェルン湖で月の光に揺れる小舟のようである」と述べたそうです。 素敵ですねぇ。 ベートーヴェンは「月光」の完成後、耳の病を苦に自殺を決意し、あの有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いたのですが、苦悩を告白しきると生への希望に目覚めたというのですから、本当に強い人だったのだなぁと思います。 だからなのでしょう、ベートーヴェンの音楽を聴いたり弾いたりすると、弱っている身体も精神も「負けてはいけない」と励まされます。 及川さんのアップテンポな演奏を聴き、前半はあっという間でした。 車椅子でロビーまで行き、ちょっと休憩しました。 さて、後半は、はじめさんのお気に入り第21番の「ワルトシュタイン」からです。 多分、私よりも聴いているので詳しいかも知れません。 私は躍動的な第1楽章と、遠くの方からやって来るような第3楽章が好きです。 第2楽章は、わずか28小節ですが瞑想的で、穏やかな気持ちにさせられます。 壮大な構成力を持った作品ですよね。 最近はバレンボイムを聴く事の多いはじめさんですが、和音が降りてくるようなパッセージを取っても、バレンボイムの演奏だと丁寧で音の厚みもあるそうです。 オールベートーヴェンというのはピアニストにとって過酷なプログラムだと思います。 ずっと緊迫しっぱなしで、ぐいぐい聴衆を引っ張っていかなくてはならないですし。 及川さんの表情も厳しかったです。 そういえば、いつもは自身のナレーションが入るのですが、今回は演奏に集中したかったからなのでしょうか、有りませんでした。 最後は第23番「熱情」。 32曲あるピアノソナタの中で一番好きな曲です。 及川さんの演奏は何回か聴いていますが、その都度ドラマがありますからね、今宵はどうなるのでしょう。 及川さんの気迫の唸り声もここでピークに達していました。 第1楽章の最後の方にある、あのドキドキする休符。 静寂の後の爆音。 ここは凄まじかった! そして、第2楽章から切れ目なく入る第3楽章ですが、手に汗を握って聴いていました。 もの凄い速さです。 会場も一丸となって見守っているいうな感じ。 火山が噴火するようなスリリングな演奏に大喝采。 はじめさんが言うように、やや音が甘いところはありますが、真正面から挑むという気迫を感じる演奏は好感が持てました。 アンコールは、てっきりベートーヴェンかと思っていましたが、意表をつかれました。 チャイコフスキーの四季より「秋の歌」です。 緊迫感から解き放たれて、ロマンティックに歌いまくります。(^^;
はじめさんは、ショパンだと思ったようです。 最後の音は、ロングトーンで鍵盤からずっと指が離れなかったのですが、その瞬間まで会場もシーンとなっていました。 大ホールで、これだけアーティストと一体になるコンサートもまた珍しいです。 演奏者と同様に聴く側も緊張感から開放されて、これが良い気分でした。 続いて、バッハの「主よ人の望みの喜びよ」。 クリスマスも近いですし、ナイスな選曲ですね。 ベートーヴェンで前向きな気持ちになり、アンコールでは暖かな気持ちになれましたので、少々無理をしてでも出かけて良かったなと思いました。
2007/10/29 Mon.
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:イェルク・デームス&パウル・バドゥラ=スコダ
デームス氏79歳、スコダ氏80歳! ウィーンの巨匠によるスーパーデュオです。 こんな面白い企画は一体どなたが考えたのでしょう? 年齢を感じさせないほど熱く楽しい演奏に圧倒されっぱなしのコンサートでした!
世紀のコンサートは、まずデームス氏のシューベルトの「4つの即興曲Op.90から」。 お昼のソロリサイタルの後だというのに、本当に元気な方です。 この曲は親しみやすく、私も生徒さんのレッスンや発表会の選曲で時々練習しています。 お昼のコンサートに続いて、やはりベーゼンドルファーでの演奏です。 2階席から見ると、とても大きなフォルムで、これがインペリアルなのだなと思いました。 その堂々とした風貌に相応しい演奏でした。 シューベルトは、モーツァルトのライバルだったサリエリから学んでいたのですね。 さて、いよいよスコダ氏の登場です。 連弾のようで、椅子が2つ並んでいますが高さが全然違います。 右側(プリモ)の方がスコダ氏と思われますが、圧倒的に高く、それを見て、はじめさんが「スコダって、もしかして子供!?」と可笑しな事を言っていました。 さぁ、そのスコダ氏が登場! 小柄で可愛いおじいちゃんです。 なんとなくカツァリスに似ているなぁと思いました。 曲は、シューベルトの「幻想曲へ短調」。 連弾の最高傑作との事ですが、私は初めて聴く曲でした。 心から音楽を愛しているといった雰囲気が伝わって、楽しそうに演奏する2人の巨匠。 それを会場では真摯に受け止めて静かに聴き入ります。 こんな機会は滅多に無い事だと思います。 続いて、スコダ氏のソロ。 モーツァルトの「ピアノソナタ第14番 ハ短調」です。 モーツァルトは2曲しか短調のソナタを書いていませんが、このハ短調の曲はドラマティックな作品で大好きです。 スコダ氏の演奏はキビキビとして、とても80歳だとは思えません。 好きなタイプのピアニストです。 バロックから現代音楽まで幅広いレパートリーを持ち、指揮や作曲も行うほか、音楽学の分野でも活躍されている方なのですね。 そして、現在も3度目となるベートーヴェンのピアノソナタ全曲録音をされて、非常に意欲的な巨匠です。 休憩中に、そのベートーヴェン全集が確か12,000円で販売されていました。 欲しかったのですが、躊躇してしまいました。 このお歳のピアニスト2人分のCDが並べられると、さすがにもの凄い数でしたが、飛ぶように売れていました。 特にスコダ氏のCDはジャケットが若かりし頃の氏の写真であるためか、売れているようでした。 かなりの二枚目です。 後半は、モーツァルトの「2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調」から。 ここで、2台のピアノがステージに並んだのですが、ベーゼンの大きさに改めて驚かされました! この曲は、ラルゲットの部分はモーツァルトが書いたのだそうですが、アレグロの部分は途中まで未完成という曲です。 通常はシュタドラーが加筆したものを演奏するか、演奏者自身が適当にアレンジして弾くのだそうです。 この日は、スコダ氏の修正加筆で演奏されました。 最後は、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調」。 ”のだめカンタービレ”でもお馴染みの曲で、モーツァルトの弟子アウエルンハンマー嬢と初演し、大成功を収めたそうです。 第3楽章の主題は「トルコマーチ」を逆さまにしたようなメロディーだという事で、注意して聴くと、なるほど~と面白かったです。 演出が多彩だった事もあり、この時点で軽く午後9時過ぎでしたが、アンコールもまたサービス精神旺盛で長い曲でした。 1曲聴き終えて、流石にもうアンコールは無いだろうと思い、駐車場が閉まる時間だったため、先に会場を出たはじめさんを追って、私も席を立ったのですが、ロビーのTVを見たらまだ演奏されていました。 シューベルトの「軍隊行進曲」でした。 それにしてもタフというか、お2人とも本当に演奏するのが楽しくて仕方が無いといった感じです。 ロビーではピアニストの上杉春雄さんにお会いして、少しお話しました。 上杉さんはデームス氏に師事されている事は知っていますが、明日は、練習とレッスンを兼ねてなのでしょうね、上杉さんのお宅に来られるのだとか。 上杉さんは、医師として多忙な中、ピアニストとしても活躍されて、バッハの平均律の連続演奏会が予定されています。 本当に凄い方です。 「頑張ってください!」とご挨拶して会場を後にしました。
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:イェルク・デームス
イェルク・デームス氏のレコードやCDは沢山持っているけれど、コンサートを聴くのは初めてです。 はじめさんは、デームス氏が弾く、ベートーヴェン自身が晩年に所有していたピアノ、コンラート・グラーフや、若きベートーヴェンの初期のウィーン・ピアノであるブロードマン・ピアノ、その後のブロード・ウッド・ピアノなどで録音されたマニアックなCDを事の他気に入っていて、仕事に追われている時に聴くと癒されるのだそうです。(現在のピアノより硬い音質で、最初に聴いた時は、ちょっと乱暴な演奏に聴こえて私はかなりびっくりしました。) そこで、多忙にもかかわらず休みを取って聴きに出かけました。
キタラのランチタイムコンサートは初めて出かけました。 先日の小山実稚恵さんのコンサートは、夜でしたので気づきませんでしたが、中島公園は紅葉が真っ盛りで、とてもとても綺麗でした。 コンサートの前にたくさん写真を撮って、あたふたと会場に到着!
79歳のデームス氏がステージに登場。 大きな方です。 最初はバッハの「フランス組曲 第5番」から。 7曲の小品からなる第5番は広く親しまれていて、中でも4番のガボットが私は好きです。 デームス氏の演奏は丁寧で暖かいなぁと思いました。 続いてモーツァルトの「幻想曲ハ短調」。 初めて耳にする曲ですが、バッハの次男、エマニュエル・バッハの作品に影響を受け作曲されたそうです。 即興演奏を楽譜に書き留めたような印象の曲です。 バッハ、モーツァルトと続いて次は、いよいよベートーヴェン。 曲はピアノソナタ第17番「テンペスト」。 この曲を名付けたのはベートーヴェンの弟子シントラーですが、師にこのソナタの意味を尋ねたところ、ベートーヴェンは、「この曲を理解するにはシェークスピアの『テンペスト』を読みなさい」と言ったという話は有名ですよね。 32曲あるベートーヴェンのソナタですが、私はタイトルが付いている曲から耳にしてきましたので、この曲は愛着があります。 私は80歳まで生きていられるかどうかわかりませんが、いつまでも健康でピアノを弾けたら良いなぁと思いながら、デームス氏の弾く「テンペスト」を聴いていました。 そういえば、開演前に気づきましたが、キタラでベーゼンドルファーを使用しての演奏会というのも初めてです。 デームス氏の演奏は全く力みが無く柔らかく暖かいので、ベーゼンドルファーというピアノに合っている様に思いました。 最後はフランクの「前奏曲、コラールとフーガ」です。 ベルギー生まれで、フランスに帰化した作曲家で、19世紀後期のフランス音楽のリーダーとして活躍したそうです。 華やかで気高い演奏でした。 アンコールは、ドビュッシーの「沈める寺」。 これがとても良かったです。 曲の流れに沿っての選曲だったのでしょうね。 ドビュッシーファンでもある、はじめさんは冒頭の音を聴いた時「おぉっ」と感動し、その感動は幾重にも広がる美しい和音と残響と共に広がっていったようです。
海の中に沈んだ寺院が、ゆらゆらと水の中で揺れている様が目に浮かぶようでした。 なんとも素敵な音を締めくくりに聴いて優雅な心のランチタイムを過ごしたあと、白石のオムライス屋さんでお腹のランチタイムとなりました。
2007/10/26 Fri.
場所:札幌コンサートホールKitara小ホール
ピアノ:小山実稚恵
半年が経つのは早いものです。 昨年度から始まった《音の旅》シリーズですが、もう第4回を迎えたのかという感じです。 これまでの回、そして、今回の演奏を聴いて、小山実稚恵さんは、意思が強くて多彩なピアニストなのだなぁと改めて思いました。 コンサートでは、プログラムの変更など、よくある事ですが、きっちり24回、すべてのプログラムを演奏していくなんて、今まで誰も成し得なかった事だと思います。 というより思いも付かない事を小山さんは実行されているのです! さて、4回目の扉が開きました。
今回は濃青紺色というイメージ。 深いブルーのドレスで小山さんがステージに登場。 始めはシューマンの「クライスレリアーナ」からです。 シューマンが秘めていた対照的な性格から生まれた、フロレスタン(明るく活発な性格で主にト短調)とオイゼビウス(内向的で静かな性格で主に変ロ長調)が交互に顔を出すこの作品ですが、シューマンに限らず人は多面的な性格を持っていると思う私のお気に入りの曲です。 もし、私自身がフロレスタンとオイゼビウスなら、嬰ハ短調と変ニ長調かな、などと想像しながら聴いていました。 この作品はショパンに献呈されています。 第1回からシューマンに対する小山さんの想いを感じて聴く演奏は、やはり今回も感動的でした。 続いて、バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」。 小山さんにとって、バッハの存在は、「言葉で語れないほど強く大きなもの」とのことです。 私はコンサートでは初めてこの曲を聴きました。 バッハは、私には格式のある大作曲家で、どこか近寄りがたい存在なのですが、小山さんは、ユーモアに富んで、遊び心に支えられた、未来に向けての音楽と語っていらっしゃいます。
後半のフーガで、バッハの綴り"BACH"を並べ替えた"ABHC(ラ・シ♭・シ・ド)"の半音階の主題が3声に展開されます。 とても情熱的な演奏で、会場からも、感嘆のため息が感じられました。 ここまでが前半ですが、私が座った席の近くの方が妙に落ち着きの無い方で、いつものように小山さんの演奏を集中して聴けませんでした。 こんな時は、どうしたら良いものなのでしょうと思いながら、ビールを飲んで休憩しました。
後半は、シェーンベルクの「6つの小さなピアノやレコード曲」から。 タイトル通りと言いましょうか、とてもとても短い作品にびっくり! ”驚句的スタイル”と呼ばれているそうで、なるほど~と、思わず笑ってしまいました。 それを察してか間髪入れずにショパンの「幻想曲」に突入です。 ショパン唯一の幻想曲。 まさにファンタジーの世界が広がります。 バラードよりスケールの大きな作品で、それ故に弾き手によって聴いた時の印象が大きく左右される作品だと私は思っています。 小山さんの演奏は人を魅了してしまう小悪魔的な感じがします。 恐れ入りました。 などど感心しているうちに、ラフマニノフの「ソナタ第2番」ですからね。 演奏会でも何度か聴いていますが、この大作を感動的に聴き入るといった体験は、もしかすると今回が初めてかも知れません。 小山さんは、このソナタが大好きでしばしば演奏されていらっしゃるとのことですので、そういった余裕から安心して聴けたのでしょうか。 実は、ラフマニノフは57歳の時にアメリカでこの曲に手を入れて120小節あまりがカットされ、さらにパッセージなども書き直されているのです。 小山さんは原点版と改訂版の違いをはっきり認識してみたいと熱く語られ、彼女のラフマニノフに対する並々ならぬ想いを感じました。 本当に素晴らしい演奏でした。 さて、お楽しみのアンコールですが、いつも3曲演奏されるのがお決まりのようで、今宵はラフマニノフのプレリュードが3曲並びました。 その選曲に思わず「おぉっ!」と驚嘆した私は、それまで散々悩まされた、隣と前の席のオジサマの迷惑行為を忘れる瞬間でもありました。 1曲目はOp.23-6
変ホ長調。 優しくロマンティックな調べは、いかにもラフマニノフだなと感じる大好きな曲。 続いてOp32-12嬰ト短調。 ほの暗い光の中でテノールが悲しみを語ります。 良いですねぇ。 3曲目は、これはもう間違いなくあの曲でしょう!と確信した通り、Op3-2
嬰ハ短調「鐘」でした。 この曲で締めくくるあたりも、実に粋なプログラム構成だと感心してしまいます。 この先、10年間続くドラマが気になります。 可能な限り聴いてみたいと思います!
2007/10/ 2 Tue.
場所:札幌コンサートホールKitara小ホール
ピアノ:舘野 泉
共演:平原あゆみ
舘野先生のリサイタルを聴くのは昨年の5月以来です。 今年の6月に紀尾井ホールでゲキチ氏のリサイタルを聴いた時に、見たチラシで、春から全国ツアーをされている事を知り、今日のコンサートのチケットを購入しました。 吉松 隆さんといえば、《プレイアデス舞曲集》で有名な作曲家ですが、シベリウスの音楽に魅せられて作曲の道に入った方で、舘野先生とは、北欧フィンランドという共通の魂の故郷を持つ盟友との事。
最初の曲は、2006年に作曲された《アイノラ抒情曲集》。 「アイノラ」とは、「アイノの里」という意味で、シベリウスが晩年を過ごしたヘルシンキ郊外の山荘の事です。 「アイノ」はフィンランドの叙事詩『カレワラ』に出てくる乙女の名前であると同時に、シベリウスが愛した妻の名前でもあります。 私たちが、この山荘を訪れて、シベリウスのピアノで舘野先生の演奏を聴いた想い出は生涯忘れることはないでしょう。 今回びっくりしたのは、右手がかなり添えられていた事です。 左手だけで弾いた方が弾きやすいのだそうですが、右手を使っていると、萌え出した若葉のような優しい感触があるのだとか。 相変わらず舘野先生はロマンティストで詩人だなぁと思いました。
TVで知っていましたが、最後のお弟子さんであろう、平原あゆみさんと共演されているのですね。 《四つの小さな夢の歌》が3手連弾に編曲されての演奏でした。 3手連弾の演奏は初めて聴きましたが、とても珍しい事で、実際、3手連弾の曲というものはほとんど無いのだそうです。 春・夏・秋・冬と、それぞれの季節が楽しめる優しい調べでした。 続いて、お弟子さんの平原あゆみさんの独奏による《プレイアデス舞曲集Ⅳ》。 吉松氏は頬をなでる風のようなやわらかな叙情が気に入っているとプログラムノートに書かれていました。
後半は、《タピオラ幻景》から。 この曲は、2005年に舘野先生のために書かれました。 先生は、「演奏を重ねるうちに雄渾なバラードに成長し、今もなお育ち続けている」とおっしゃっています。 舘野先生の凄いパワーを感じます。
そして、最後は《ゴーシュ舞曲集》。 豪放磊落! ん、焼酎にもそんな名前のがあったなと思いながら、その陽気な”びっくり玉手箱”なる演奏を聴きました。 ゴーシュとは、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』を思い浮かべますが、フランス語で「左手」という意味だそうです。 ポップなリズムが躍動的で、演奏されている舘野先生も楽しそうでした。 アンコールは、再び平原あゆみさんとの3手連弾。 夢物語のように美しい《子守歌》。 この曲は皇后美智子様と連弾されたと、先生はアンコールに入ってからお話されていました。 ステージでお話しされるのは久しぶりだったので、先生のお声が聞けて嬉しかったです。 「それじゃあ最後に吉松さんの編曲でカッチーニのアヴェ・マリアを弾きます。」と、おっしゃって、その言い方がひょうきんな感じで、会場から笑いを誘っていました。 この雰囲気。 なんだか懐かしい感触で嬉しかったです。 ところが、演奏が始まった瞬間に空気が変わりました。 深く心に沁みる美しい調べが、左手1本で紡ぎ出されます。 えっ!?と魔法にでもかかったように、その音楽に感嘆し、知らず知らず涙が溢れてきました。 どうしたらこのような音が出せるのでしょう...。 実は、今日の私は吉松さんの音楽の世界に素直に身を委ねられないで聴いていたのです。 どこまでも優しく柔らかな調べが、今の私には受け入れ難い心境でもありました。 しかし、最後にこの曲を演奏する舘野先生のピアニストとしてのお姿を拝見して、そんな自分が気恥ずかしくもなりました。 教える事が嫌いで20年間、お弟子さんをとったことがない先生の人生に変化があるように、私も今は変化していく時を迎えているのかなと思いながら、会場を後にしました。
2007/6/20 Wed.
場所:札幌コンサートホールKitara小ホール
ピアノ:小山実稚恵
12年間全24回という遠大なプログラムの第3回目です。 今回もとても魅力的な演奏会でした。
プログラムには、「第3回 萌黄色:自然の情景・なつかしさ・キエフの大門」と書かれてありました。 偶然にも私も萌葱色のワンピースを着て出かけたので、ちょっと嬉しかったです。
萌黄色のドレスでステージに小山さんが登場。 プログラムは、ハイドンの「アンダンテ変奏曲」から。 プログラムノートを見て驚いたのですが、この曲の主題は、なんと49小節からできているそうです。 演奏時間も15分という大曲です。 小山さんの解説によれば、ヘ短調とヘ長調の対比が、心情と情景を描いているようだとの事。 初めて耳にする曲でしたがとても素敵でした。 続いて、ウェーベルン「ピアノのための変奏曲」。 ウェーベルンは、新ウィーン楽派として、シェーンベルクと共によく知られていますね。 12技法で作られた作品ですが、私には少し難しい作品でした。 前半、最後はシューマンの「子供の情景」。 1曲1曲は短く愛らしい小品ですが、全13曲となると演奏時間20分という大きな曲になります。 教室の発表会でも全曲取り上げた事がありますが、 シューマンのファンタジーに触れる格好の題材でもあります。 小山さんの演奏は、とっても思いやりに溢れ、優しい夢の世界へと誘われました。 ここで休憩。 いつもながら感心しますが、小山さんの演奏会を聴きに来る客層の熱心な事。 このような演奏会はあまりないので、私はいつも安心して小山さんの音楽の世界を堪能できます。 コンサート開演前に次のチケットも購入してしまいました。 さて、後半のプログラムはムソルグスキーの「展覧会の絵」です。 何度も聴いている曲ですが、女性ピアニストの演奏をコンサートで聴くのは初めてです。 正直言って、とても驚き感動しました。 凄い音の厚み、それでいて繊細。 小山さんの演奏を聴きながら、展覧会で1つ1つの作品を見ている自分が居ます。 演奏時間35分という大作ですが、いつもながらこの曲はあっという間に終曲のキエフの大門が鳴り響きます。 腕を上手に使いながら轟音を轟かせる小山さんの演奏は実に見事でした。 目を閉じていると大男が演奏しているかのような音で圧倒されました。 そして、アンコール。 今回で3回目ですが、小山さんはアンコールは3曲演奏すると決めていらっしゃるのでしょうか。 とにかく、展覧会の絵を弾いたばかりだというのに、拍手に迎えられてすぐステージに登場。 そして、拍手に応えてくださります。 メンデルスゾーンの「春の歌」。 清々しくて美しい演奏。 2曲目、チャイコフスキーの「舟歌」。 しっとりと叙情性に溢れ、切ないくらい美しい。 そして、3曲目。 本当に潔く弾いてくださいます。 シューマンの「春の歌」(リスト編)。 プロというのは本当にこういう方を言うのでしょうね。 小山さんって、ほんわかして優しい印象ですが、ピアノに向かうともの凄く意思表示がはっきりとしていて、聴いていてなんて潔ぎの良いピアニストなのだろうと、尊敬してしまいます。 第4回の秋のリサイタルも楽しみです。
2007/6/14 Thu.
場所:紀尾井ホール
ピアノ:ケマル・ゲキチ
昨年の興奮が覚めないまま、今回のコンサートを迎えました。 この日は一日中雨でホールに着くまで大変でしたが、足取りは軽快でした。
さて、今回のプログラムには残念ながらリストは入っていませんが、大きな曲での構成となっていて、どういうドラマが繰り広げられるのだろうとワクワクしていました。
前半はベートーヴェン。 まず、「創作主題による32の変奏曲 ハ短調」 から。 8小節の簡潔な主題ですが、32ものヴァリエーションを作るのは凄いですよね。 キリリとした緊張感のある音でゲキチ氏が弾くと、あっという間に華やかなフィナーレを迎えていました。 「あれ、この曲ってこんなに短かったかしら?」と感じました。 以前、みなとみらいホールでブレンデルの演奏を聴いた事がありますが、その当時と今とでは私の演奏会を聴く姿勢が変わったように思います。 「積極的に参加して聴く」という風に。 これは、ゲキチ氏から学んだように思っています。 続いて、ピアノソナタ29番「ハンマークラヴィア」。 演奏時間が40分もかかるという大曲で、コンサートで聴くのは初めてです。 壮大な和音に続いて柔らかなメロディーが流れ、印象深い作品です。 第3楽章は187小節にも及ぶ長大なアダージョ。 かなり哲学的な感じがして、私は瞑想気分に浸っていましたが、会場の皆さんの熱心な聴きぶりに驚かされました。 そして、第4楽章を終えて壮大なソナタは幕を閉じました。 演奏する方も聴く方も体力の要る曲です。 前半を終えて、はじめさんが少し躊躇したような表情で、「昨年よりタッチが少し甘いように感じる」と言いました。 確かにゲキチさんらしい音の厚み、また鍵盤の上で音を探しているかのように感じる場面もあり、流石に大変なプログラムなのかなと思いながら、後半に突入です。 シューマンの「クライスレリアーナ」。 激しい気質の「フロレスタン」、内向的な「オイゼビウス」が交互に現れ、シューマンの幻想的な音楽の世界に浸れる、お気に入りの曲の1つです。 全8曲ですが、ん~確かにはじめさんが言うように、いつものゲキチさんらしい音のクオリティーが感じられません。 7番、8番と聴いているうちに右手の小指が時折鳴らない箇所が在ったので、もしかすると指のアクシデントがあるのかも知れないと思いました。 また、時折指を気にするような仕草をされるので、少し心配になりました。 そんな状況で、次のラヴェルの「夜のガスパール」の演奏が始まりました。 第1曲「オンディーヌ」。 今までの不安を拭い去るような素晴らしい演奏に、別世界へと誘われます。 何度聴いても良い曲だなぁと惚れ惚れして聴き入りました。 葬送の鐘が鳴り響く第2曲の「絞首台」へ移ると、虚ろな気持ちになり、心はどこか遠くの方へ行って彷徨ってしまいそうでした。 すると突然「スカルボ」が現れます! CDを聴いていても、この瞬間には、いつも「わっ」と驚かされる程に悪魔的な音楽。 ラヴェルは、難曲で有名なバラキレフの「イスラメイ」よりも難技巧を必要とする曲を書きたかったとか。 人間技とは思えないような演奏を見ているだけでも凄い曲です。 最後にゲキチ氏が悪魔の化身のように見え演奏を終えると、聴衆が圧倒されてしまっていたからなのでしょうか、拍手するまでに暫く時間が空きました。 それにしても相変わらず、膨大な演奏会でした。 アンコールを求めて拍手が鳴りますが、場内が明るくなりアンコールは無いのかなと思いました。 それでも拍手は鳴り続きます。 ゲキチ氏がステージに登場。 手を顎に当て少し考えているようなポーズをされ、どうしたのですか?!と場内から笑いが。 するとゲキチ氏は「アンコールを本当は弾かなくちゃいけないのだろうけど、ホールの時間が過ぎているし・・・」と、そのくらいしか聴き取れませんでしたが、1曲演奏する事を決心してくださった。 ショパンのエチュード25-7です。 最初の音が鳴ったとき、ジーンとなりました。 このアンコールが滅茶苦茶良かったです! 本日、一番心に残る演奏でした。 今回は夜の演奏会で帰りも遅くなるので、足早にホールを後にしましたが、帰るとき、ゲキチ夫妻とすれ違いました。 ゲキチ氏が今夜の演奏会について婦人に語っていらしていように見えました。 次はどんな演奏会を聴かせて頂けるのかと思いながら、また雨の中を歩いていました。
2007/6/10 Sun.
場所:東京オペラシティ コンサートホール
ピアノ:アンドレ・ワッツ
3年ぶりのワッツのリサイタルということで、ワッツを聴くための旅行の日程を立てました。 今回、初めて行ったオペラシティですが、とても素晴らしい建物でリサイタルまでの時間を楽しく過ごしました。 ホールは武満徹さんのメモリアルホールだとか。 高い天井が印象的な気持ちの良いホールでした。 今年60歳になったワッツ。 今年はデビュー50周年なのだそうです。
...ということはデビューは10歳!
開演前にCDの販売があり、終演後にサイン会があるとのこと。 ワッツのCDは(買えるものは)全部持っているのですが、サインはもらったことがなかったので、ためらうことなくCDを求めました。
颯爽とステージに登場したワッツ。 ワッツ自ら編曲のバッハのコラール前奏曲「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」から厳かに始まりました。 拍手の合間に「良い音だね」と、はじめさんが囁きました。 次は以前も聴いた事があるモーツァルトのロンド ニ長調とイ短調。 札幌で聴いた時は、咳が出そうになり、涙を流しながら必死に堪えたことを思い出しました。 とってもチャーミングで軽やかなニ長調と悲哀感漂うイ短調の組み合わせが素敵でした。 前半の最後はシューベルトの3つの小品。 小品といっても、シューベルトの作品は長く、大曲を聴いたといった感じです。 リズムに合わせて身体が揺れるワッツの演奏。 以前より若干動きが少なくなったように感じましたが、伝えたいこと、表現したいことが、はっきり解る演奏は、とても好感が持てました。 実はプログラムに大きな変更があり、少々心配していたのですが、ワッツ健在! 嬉しい前半終了です。 後半はベリオの「水のクラヴィーア」から。 初めて耳にする曲でした。 2分ほどの短い曲でしたが、印象的な曲でした。 そして、いよいよリストです。 「悲しみのゴンドラ」と夜想曲「眠れね夜、問いと答え」。ヴェネチアに滞在中ワーグナーを訪ねた際、ゴンドラが亡骸を乗せて運河を下る光景を目にしたリストは、ワーグナーの死を予感して書いた曲なのだそうですが、悲しみを表現する下行半音階が印象的でした。 続いてショパンの夜想曲、作品27-1と48-1。 2曲ともドラマテックな曲想です。 特に48-1は夜想曲というよりバラード風で熱い語り口が好きです。 次はドビュッシーの「レントより遅く」のプログラムでしたが、ラヴェルの「鏡」より”悲しい鳥たち”に変更されました。 レントも好きですが、ワッツのLDなども持っていますし、私にはかえってラヴェルを聴けて嬉しかったです。 そして、素晴らしい演奏でした。プログラムの最後はドビュッシーの舞曲(スティリー風のタランテラ)。 今回のプログラムは小品でまとめられていますが、ワッツが演奏するとその1曲1曲が大曲のように感じられ、特に最後のドビュッシーは、まるでオーケストラを聴いているような迫力で驚きました。 プログラム構成も素晴らしく、武満徹氏に捧げるワッツの心情が垣間見えて、大胆なプログラム変更はそういう事だったのかなぁと私なりに納得していました。 聴衆の皆さんも大感激で大きな拍手でワッツを迎えます。 アンコールの1曲目はショパンのエチュード25-1 「エオリアンハープ」。 ワッツのお気に入りの曲です。 相変わらず美しい音、軽やかなアルペジオにうっとり。 2曲目はプログラム中、一番大きな曲の登場。 ドーンと深い低音が鳴って、はじめさんと思わず「おぉっ!」と目を合わせました。 ショパンのバラード第1番を持ってきましたよ。 もう、アンコールだという事をすっかり忘れて、皆、正座をして聴いているかのようでした。 誰もが知っているこの名曲。 でも、「こんなバラードは聴いた事がない!」。 と、はじめさんが興奮するくらいワッツの演奏は見事でした。 スタンディングオベーションで拍手をしている人も多く、感動的なフィナーレでした。 この後のサイン会は長蛇の列で、わりと前に居た私は無事ワッツにCDにサインして頂きましたが、後の皆さんはどうだったのでしょうか。 とにかく聴衆の誰もが熱狂的になったリサイタルで本当に感激しました。 ワッツのリサイタルを聴いた後は、館内の「ハブ」というお店で、はじめさんとギネスで乾杯。 しばし演奏の余韻に浸りつつ、今度はいつ聴けるのだろうかと思うと、まっすぐ帰宅する気にはなれませんでした。 これからもずっとワッツのリサイタルを聴けますように。
2007/2/18 Sun.
場所:札幌コンサートホール kitara 小ホール
ピアノ:有森 博
ピアノリサイタルは12月の及川浩治さん以来でしたので、久しぶりにじっくり聴いて、なんだかとてもリラックスした気分になれました。
日曜の夕方という、ちょっと珍しい時間帯でのコンサートでしたので、お昼前に家を出て小樽で食べ歩きをしたりしながら、有森さんの素敵なコンサートを楽しんできました。
プログラムの初めは、シューマンの「六つの間奏曲 作品4」から。 初めて聴く曲でした。 シューマン自身はこの曲を「作品2のパピヨンを大きな曲にした」と言うコメントを残しているそうです。 シューマンらしい叙情的なメロディを、歌心いっぱいの有森さんの演奏で楽しめました。 続いて、”子供の情景”から有名な「トロイメライ」。 声部の弾き分けが見事で、それはそれは美しい、まさに夢のような「トロイメライ」でしたよ。 前半の最後は、ショパンのピアノソナタ第2番。 今年はショパンをたくさん勉強したいと思っていますので、特にじっくり聴きたかった曲です。 この曲についてシューマンは、「乱暴な息子4人を縛り付けてソナタという形式に押し込めた」と言ったそうですが、3番と共に好きな曲で、コンサートでも多く聴いていますが、レコードやCDでは、もう数え切れないほど聴いています。 特にベートーヴェンを彷彿させる第1楽章の緊張感が好きで、自分でも勉強した事があります。 第2楽章のスケルツォも好きですが、難しくて勉強していません。 第3楽章は有名な「葬送行進曲」。 クラシックを全く聴かない人でもこのメロディーだけは、知っているでしょうね。 第4楽章はとても短く、「墓の上を渡る風」と呼ばれています。 この楽章を聴いて、はじめさんは「ショパンは何故こんなおどろおどろしい曲を書いたのだろう?」と首を傾げていました。 それにしても、相変わらず有森さんは凄い汗をかきながらの熱演でした。 ヤマハのコンサートで小さなお子さんも多かったのですが、騒がしくなる事もなく、みな静かに聴いていたようです。 それだけ、有森さんの演奏が素晴らしいという事なのでしょう。
後半は、爽やかな白いシャツとタキシードに着替えての登場。 以前は奇抜な衣装で登場していた有森さんですが、最近では、演奏スタイルも衣装も落ち着いてきたように感じました。 珍しい作品が並んでいました。 アルチュニアン、ハチャトゥリアン、ババジャニアンのアルメニア3人組の登場です。 流石に有森さんのロシアものは面白い! 私が知っていたのは、作曲者も曲もハチャトゥリアンの「トッカータ」だけでしたが、他の2人の曲も素晴らしかったです。 帰宅後、はじめさんは、CDが出ていないかとネットで検索していましたが、なかなかCDでは手に入らない様です。 最後はリストの「ハンガリー狂詩曲 第2番」。 ラフマニノフによるカデンツァで、前回のリサイタルでも聴いています。 有森さんの演奏は素晴らしかったのですが、時折、和音の厚みがなくなって、あれ?と少し不安に思う時がありました。 前半のショパンのソナタでもそうだったので、今回も演奏スタイルの変革期で調整が難しいのかしらと思いました。 アンコールのバッハを2曲立て続けに聴いて、なるほど~!と、きっと会場に居るお客さんのほとんどが感じたかも知れません。 今日のテーマは「ポリフォニー」だったのですね。 なんとも解りやすい。 はじめさんでさえ、「ポリフォニーの人になっていた」と感想を述べるくらいですから。 でも、言い換えると、素人にそれを感じさせるほどの演奏をされるという事は凄い事ですよね。 アンコールの最後は最近リサイタルの最後に弾くという「へ長のメロディ」でした。 とってもチャーミングで暖かい演奏でした。 今回も、有森さんの拘りが感じられ、それと共に演奏スタイルも変わりつつあるのだなと思いました。 今度はどんな風に変わっていくのか、やはり今後も楽しみなピアニスト有森 博さんです。