Little Players News

No.122 2008 5月

暖かな春で桜の開花も早かったですね!

練習曲(エチュード)⑧

先月に続きピアノの魔術師といわれたリストの練習曲について、お話したいと思います。

2つの演奏会練習曲

フランツ・リスト(1811~1886)のほとんどの練習曲は、1848年から1858年までのワイマール時代に作曲されていますが、この練習曲は1862年から翌年にかけてローマで作曲され、練習曲としてのジャンルの最後の作品です。 斬新な和声、洗練された技巧など、いずれも50歳を超えた円熟期のリストの自信が感じられ、「3つの演奏会用練習曲」と共にコンサートでも好んで演奏されます。 リストの愛弟子であるディオニソス・ブルックナー(1834~1890)に捧げられました。 実は作曲された1862年に、リストは13年間務めた宮廷楽長の地位を政治的な陰謀で辞任に追い込まれ、翌年には50歳の誕生日に結婚式を挙げる事になっていたカロリーネと、政治的圧力から挙式前夜にローマ教皇から失効を通達され深い絶望のあまり抜け殻のようになっていました。 そして、リストは1863年に修道院に入ってしまいました。 このような絶望感のなかで書かれたのが、「2つの演奏会練習曲」なのです。


『森のざわめき』 変ニ長調

邦題「森のささやき」として広く知られてきましたが、それは誤訳であり、正確には「森のざわめき」であると、東京のリストセミナーに参加した際に大変な話題となった曲です。 それまでは私も「森のささやき」だと思って弾いていました。 ピアニストに好んで弾かれる作品で、左手の静かなメロディーが曲全体を支配しています。 細かい右手の動きは森にそよぐ風を示しているようです。 リストの作品に多くみられるダイナミズムとは違う繊細なタッチが要求されます。

『小人の踊り』 嬰へ短調

短い前奏に続き、敏捷な動きをみせる楽想は、タイトルどおり軽やかな妖精の舞いを想像させます。 スケルツォ風の曲。 激しい調性の移り変わり、急激なリズムの変化、デモーニッシュ(悪魔的)な雰囲気を持ち合わせたとても魅力的な曲ですが、演奏には高度な技巧が要求されます。