Little Players News

No.128 2008 11月

雪虫がふわふわ飛んでいます。晩秋から初冬を迎えようとしています。

練習曲(エチュード)⑫

今月はソナチネで有名なクレメンティに師事していたクラマーの練習曲についてお話したいと思います。

クラマー=ビューロー60の練習曲集

 ヨハン・バプティスト・クラマー(1771~1858)はイギリスのロンドン近郊に生まれました。 最初の師は父親で、1779年から1781年にかけてロンドンでクレメンティに師事しています。 100曲を超えるピアノ・ソナタ、協奏曲、室内楽曲を残していますが、特に練習曲集には優れていて、リストの弟子であるハンス・フォン・ビューローによって編纂されたのがこの「クラマー=ビューローの60の練習曲集」なのです。 ショパンの練習曲に入る前の練習曲として有名です。

クラマーとベートーヴェン

 クラマーはベートーヴェンと同時代に活躍した作曲家・ピアニストでした。 ベートーヴェンが所有していた楽譜の中にクラマーの「ピアノのための練習曲集」作品39と作品40があり、楽譜には各曲の演奏上の注釈が鉛筆やペンで書き込まれていたそうです。 ベートーヴェンはクラマーをピアニストとして、また作曲家として非常に高く評価していたことが、いくつかの資料から伺えます。 クラマーのレガート奏法による、歌手のように歌う表現力は、ベートーヴェンが演奏に求めた重要な要素であったと言われています。

 60の練習曲集は、ツェルニー40番がある程度進んで、ベートーヴェンのソナタを中心に勉強していた中学生3年生の時に、突然、先生に渡されました。
 勉強した曲は、わずかだったのですが、練習曲とは思えないような綺麗なメロディーで、もう少しレッスンで勉強したかったと思った記憶があります。 そして、音大に入って1年目の時、この曲集から8番と10番が試験曲として出されました。 左手の16分音符を流れるように弾く8番は、ショパンのエチュードでいえば「革命」などの準備になるような練習曲だと思います。 実は、今回この記事を書くことで2つの発見がありました。ひとつは、ベートーヴェンがクラマーのレガート奏法を自身の曲に取り入れたかったという事です。 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏をライフワークにしていきたい私としては大きな収穫となりました。 第8番の「悲愴」、第17番の「テンペスト」などの第2楽章は、まさに歌うような表現力を必要とする曲です。 もうひとつは、リストの高名な弟子であるビューローが編纂したため、「クラマー=ビューロー」となっている事です。 実は 「サン=サーンス」などもこういう書き方をするので、一人の人なのかと思っていました。