サー・アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル / 美しい音色を紡ぎ出すピアニスト

10月は2人の「サー」の称号を持つマエストロのが聴けて、とても幸せに思います。両公演ともチケットは全席完売。サー・サイモン・ラトルさんは18年ぶり、そしてサー・アンドラーシュ・シフさんは25年ぶりのキタラ。

全席完売御礼!

2022年10月29日(土)15:00開演
札幌コンサートホール kitara 大ホール
ピアノ:サー・アンドラーシュ・シフ

program

● J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988より「アリア」

● J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より3声のリチェルカーレ

● モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K.475

● J.S.バッハ:フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816

● モーツァルト:アイネ・クライネ・ジーグ ハ短調 K.574

● J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻より前奏曲とフーガロ短調 BWV869

● モーツァルト:アダージョ ロ短調 K.540

● モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 ニ長調 K.576

intermission

● ハイドン:ピアノ・ソナタ ト短調 Hob.XⅥ-44

● ベートーヴェン:11のバガテル 作品119

● ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 作品110

encore

● J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻より前奏曲とフーガ ハ長調 BWV846

演奏曲目が分からないサプライズ・コンサート

 

本日の演奏曲目は、J.S.バッハ、ハイドン、モーツァルト、シューベルトなどの作品から、出演者がステージ上でのトークを交えながら発表します。

と、記載されているではありませんか!こんなコンサートは初めてでワクワクしました。野平さんのレクチャーコンサートもとても面白かったので、どんなお話を聞けるか楽しみでした。

それにしても、午後3時から始まったコンサートが終わったのは午後6時半を過ぎていて、実に3時間以上もの内容の濃いコンサートでした。

ステージには通訳の女性がマエストロの演奏中もずっと座って、マエストロがお話されると、その都度、通訳するというスタイルでした。

ゴルトベルク変奏曲の有名な「アリア」から始まりましたが、とてつもなく深い愛情に包まれた音で、自然と涙が溢れるほど感動していると、この「アリア」はアンコールだと思ってください。と、いきなりおっしゃるので驚きました。そして、最後にベートーヴェンの作品111を弾いた後には、もう何も弾かないとのことでした。

最後はベートーヴェンの31番のピアノソナタを聴けるのか、嬉しいなぁと思いました。

音楽には色彩がある


前半はバッハとモーツァルトにスポットが当てられました。バッハは神のような存在だと熱く語るマエストロ。モーツァルトは誰もが知っている通り天才ですが、バッハの音楽に出逢ってから劇的に変化したといいます。

24の調全てに色彩があると私も思います。前半のプログラムで一番印象的だったのは、バッハのフランス組曲第5番でした。マエストロは、この曲は青空のような色だと。今日は雨降りから小樽の海岸で虹が見えて、次第に青空が広がり、札幌では晴天の下で美しく輝くような紅葉を見ましたが、お話を聞いてピッタリの日だと勝手に思って聴き入っていました。

それにしてに、一音一音が素晴らしく綺麗で、大切に大切に音を紡ぎ出して演奏しているマエストロの姿に終始心を打たれました。

「ハイドンの弟子」と記すことを拒んだベートーヴェン


後半はハイドンとベートーヴェンにスポットが当てられました。マエストロは、ハイドンはモーツァルトの陰に隠れてあまり注目されていないことが残念だといいます。この日はハイドンの作品から第2楽章までの小さい規模のト短調のソナタが演奏されました。

ベートーヴェンはモーツァルトに師事したいと願っていましたが、モーツァルトは亡くなったのでハイドンに弟子入りしたといいます。

ベートーヴェンのピアノソナタ第「1番から3番までの作品をハイドンに献呈していますが、ハイドンはタイトルに「ハイドンの弟子」を記すように要求したけれど、これをベートーヴェンが拒否したというのは有名です。

「ハイドンから何も学ばなかった」といったベートーヴェンですが、後の作品の中にはハイドンから多くの影響を受けたことが見られます。

教会の鐘が10回鳴ったのを聞いたベートーヴェン

圧巻は最後に演奏されたベートーヴェンのピアノソナタ第31番でした。ベートーヴェンは体調が悪化して死を覚悟していました。「もう疲れた、眠い」。気力がなくなり、今にも魂が消えそうになったとき、教会の鐘が10回鳴るのを聞いた。すると、次第い青空が広がっていくように、少しずつ気力を取り戻したといいます。「嘆きの歌」からト長調のフーガへと繋がっていくところは、ベートーヴェンの強さを改めて感じ、何度聴いても鳥肌が立ちます。

確かに、この作品の後にはアンコールはないと最初にマエストロがおっしゃた意味がわかりました。

何度も何度も大きな拍手に応えてステージに登場するマエストロ。何度目かのときに、ついにピアノに向かってアンコールを演奏されました。本当に心の底からピアノを愛しているというその姿にまた心を打たれて涙が出ました。

日本公演の記録

プログラムを購入して分かったのですが、日本公演の記録が全て掲載されていて、北海道でのコンサートは少なかった。しかし、そのうちの1回がなんと小樽市民会館なのです。この前日に師匠の家でマエストロがピアノを練習したということを覚えています。1980年5月31日。

ちなみに25年前にマエストロがキタラで演奏された日のことを10年日記で調べてみると、コンサートへ足を運んでいない自分にガッカリしました。その日は午後9時半までレッスンしていたと記録が残っていました…。

今度、また聴く機会があったら迷わずに出掛けます!

みかこ