小山実稚恵「音の旅」~音の洪水~

第12回 2011年12月22日(木)【前奏曲・練習曲シリーズⅢ】
札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:小山実稚恵

シューマン:パガニーニの奇想曲による練習曲 作品3
第1曲イ短調 第2曲ホ長調 第3曲ハ長調 第4曲変ロ長調 第5曲変ホ長調 第6曲ト短調

ラフマニノフ:前奏曲集より
32-5ト短調 32-10ロ短調 32-12嬰ト短調 23-5ト短調 23-6変ホ長調 23-2変ロ長調

~休憩~

ショパン:12の練習曲 作品25より
25-1変イ長調「エオリアンハープ」 25-7嬰ハ短調
25-6嬰ト短調 25-9変ト長調「蝶々」
25-11イ短調「木枯らし」 25-12ハ短調「大洋」

ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」より
33-2ハ長調 33-7変ホ長調 39-5変ホ短調
39-6イ短調 39-8ニ短調 39-9ニ長調

~アンコール~
リスト:3つの練習曲より「ため息」
ラフマニノフ:前奏曲 3-2「鐘」
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
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久しぶりに小山実稚恵さんの「音の旅」シリーズに出かけました。もう12回目になるのですね。全24回との事ですから今回は折り返し地点。私は今回で5度目です。小ホールに入ると、次のリサイタルのチケットの販売があって、かなりの列が出来ていました。毎回聴かれている方もいらっしゃるでしょうし、熱心なファンの方々がいっぱいなのですね。このシリーズの凄いところは全24回のプログラムを小山さんが決めて、きっちりこなしている事だと思います。本日の演奏曲目は演奏者の都合により変更なんて事も少なくないのに、それが全く無いのです。毎回のアンコール3曲も、もしかすると小山さんはプログラムの一部として決めていらっしゃるのかもと思いました。

プログラムはシューマン作曲の「パガニーニの奇想曲による練習曲」からですが、リスト、ラフマニノフ、ブラームスもパガニーニの「24のカプリース」を基に作品を書いています。実はシューマンの作品は初めて聴きました。はじめさんの開口一番は「いかにもシューマン!という音楽だね」でした。小山さんも解説されているように、なるほど直線的なストレートな作品だなと思いました。続いてラフマニノフの前奏曲から6曲。32-5から演奏されましたが、ガラリと空気が変わりました。和音がゴージャスでお洒落です。作品32では12番が印象的で好きです。そして作品23からの3曲は私も弾きたい曲ベスト3なので、びっくりしました。小山さんの演奏は、前向きな性格が反映されているような力強さが特徴かなと思いました。23-6のように静かで美しい曲の響きのバランスは、とても素敵なのですが、力で押しているような所は、ホールとのバランスが少し難しいように感じました。
後半はショパンのエチュード作品25から6曲。優雅に「エオリアンハープ」から始まり、続いて、しみじみと歌われる7番へのアプローチが素晴らしく、軽妙な6番、チャーミングな「蝶々」、圧倒的な力強さの「木枯らし」、ドラマティックな「大洋」と見事な流れで、隣のはじめさんも「おぉっ」と唸っていました。プログラムの最後は再びラフマニノフの「音の絵」から6曲。ラフマニノフは、とても大きな人で手もかなり大きかったそうですから、どの作品も難曲ばかりです。作品39-5の情熱的な作品が素晴らしかったです。この作品は将来弾けたらと思いました。
アンコールの1曲目の予想はラフマニノフの「鐘」と思っていましたが、意外にもリストの「ため息」でした。凄い内容のプログラムの後で、ちょっと切り替えが難しかったのでしょうか、高音の「ため息」をついているような跳躍する音が潔くミスタッチされていたのが、小山さんには珍しく、親近感も湧きましたが、やはりちょっともったいないなぁと思いました。しかし、軽やかなパッセージ、流れるような美しいアルペジオにうっとりしました。そして、2曲目は、手のポジションで「鐘」だと分かりました。はじめさんは「カッコイイ演奏!組み立て方が上手い!」と嬉しそうでした。熱い演奏に拍手が鳴り止まず、ちょっと間を取って、3曲目は「ヴォカリーズ」。今宵、一番素晴らしい演奏で心から感動しましたが、涙を流して聴き入っている方もチラホラ見えました。舘野先生が「ピアニストにとってラフマニノフは麻薬のようなもの」と、絶妙な表現をされていましたが、今宵の演奏を聴いて、ふと思い出しました。

みかこ