失敗は成功のもと / シューマン幻想小曲集より「飛翔」

先日、ご父兄から辞めたいと電話があった生徒さんと話をする機会がインフルエンザで延期になり、今日になった。どうしてそう思うようになったのかは本人にしか分からないし、本人にも分かっていない場合もある。

お母様のお話では、学祭の合唱の伴奏で面白くなかった事があったと。それは私も本人から少し聞いたが、譜めくりの人が楽譜を読めない人で、失敗したと。私には笑って話していたし、伴奏は半ば強制的に当てらるけれど、楽しいから良いと言っていたのだけれど、家では「もう絶対にやらない」とかなり怒っていたと聞いた。

譜めくりを、慣れていない人にお願いする時は、めくって欲しいタイミングで合図するとか何回か練習しないと、受け身ではいけないのだけれど、大人の方にそれは言えなかったのだろう。

中3の時、学校が100周年記念だったか正確には覚えていないが、担任だった音楽の先生からピアノ独奏をしないかと言われた事を思い出した。ピアノに燃えていた時だったし、嬉しくて嬉しくて、すぐにピアノの先生に話すと、先生もとても喜んで下さった。曲はシューマンの幻想小曲集から「飛翔」に決まった。候補にバッハの「パルティータ」やブラームスの「ラプソディ」などがあって、どれも素敵だったが、曲のタイトルが式典にふさわしいからと「飛翔」になったのだ。

初めてのシューマンだったし、手の小さい私にはかなり難曲だった。飛ぶし、速いし。当日は体育館での演奏。緊張の中、集中して弾き始めると、鍵盤がディスコのように青や赤のカラフルなライトでチカチカして、もうびっくり。どうやら男子生徒が気をきかせてライトをグルグル回し始めたようだ。丁度、担任の音楽の先生は合唱部の行事で不在。音楽の教育実習生が学校に居た時で、恐らく気づいて止めてくれたのだろうと思う。せっかくピアノの先生も聴きにきて下さったのに、思うように演奏できなかった。

友達は「普段、聴いているから本当の演奏は知っているよ」と慰めてくれたが、照明の事は知らなかったようだ。でも、誰にも言わなかった。どんな状況であれ、集中力が消えてしまった責任は自分にあるのだから。

独りで帰宅中、照明を回した男子生徒が息を切らして追いかけてきた。彼はとても申し訳ないという表情をしていて、心から謝ってくれた。誰からも好かれる人気者なのは、こういう所なんだなぁと思った。なんだか嬉しくて、「緊張していたから、よく覚えていなくて…。○○君のせいではないから」と言うと、ホッとした表情になった。ただ、ピアノのレッスンへ行くのは気が重たかった。ところが先生は「だから目をつぶっても弾けるようにって言ってたじゃない」と笑って、気持ちを切り替えるように励まして下さった。
「失敗は成功のもと」とは、よく言ったものだ。

みかこ