2022年、若手音楽家の登竜門といわれるパリのロン=ティボー国際音楽コンクールで第1位を受賞され、今、最も注目されている若手ピアニスト亀井聖矢さんのリサイタルに出掛けてきました。席に着こうとすると、目を見開いて私を見ている女性が隣でした。なんと音大時代、仲が良かったお友だちと17年ぶりに再会することが出来て嬉しかったです。
目次
2024年8月11日(土)13:30開演
札幌コンサートホール kitara 大ホール
ピアノ:亀井聖矢
program
● J.S.バッハ:イタリア協奏曲 BWV971
第1楽章 第2楽章 Andante 第3楽章 presto
● ショパン: マズルカ Op.17
1.変ロ長調 2.ホ短調 3.変イ長調 4.イ短調
● ショパン:ポロネーズ第5番 嬰へ短調 Op.44
● ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53 「英雄」
intermission
● ショパン:バラード第3番 変イ長調 Op.47
● ショパン:バラード第4番 ヘ短調 Op.52
● プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番 変ロ長調 Op.83「戦争ソナタ」
encore
● ショパン:ノクターン第8番 変ニ長調 Op.27-2
● リスト:ラ・カンパネラ
先日の小曽根真さんのコンサートのパンフレットには事細やかに、コンサートを楽しむためのエチケットが書かれていましたが、毎回そうするべきなのかもしれません。バッハのイタリア協奏曲の第1楽章が始まった途端、近くの人が咳き込んで、ほとんど第1楽章の間、咳が聞こえていました。通路側の席だったので、退席されるべきだったのではないでしょうか。
第2楽章に入ると、今度はのど飴の袋なのかティッシュなのか、ずっとガサゴソガサゴソが止まらず、はじめさんは数回も振り返っていました。
大好きなバッハのイタリア協奏曲ですが、あまり集中して聴けなかったのが残念です。演奏が終わると、マイクを持って亀井聖矢さんのご挨拶がありました。開口一番の「咳、大丈夫ですか」に会場も爆笑。絶対に演奏者にも迷惑がかかってしまいます。
演奏が始まる前に、のど飴を口に入れたり、ティッシュなどはすぐに取り出せるようにしておくとか、どうしても咳が出てしまうときは、せめてハンカチを口に当てましょう。
プログラムはA:マズルカOp17とBのノクターンOp.27があり、札幌公演はプログラムAでした。ノクターンOp.27の方が好きですが、4曲あるOp.17のマズルカも素敵で聴き応えがある演奏でした。マズルカはマズールやクヤヴィアクなどの地方により少しずつ違うそうですが、ショパンのマズルカは色々な舞曲が融合して、民族音楽的な舞曲となっているのだとか。
ポロネーズは宮廷音楽です。第5番の嬰へ短調は、中学生の頃、レコードが擦り切れるほど聴いたホロヴィッツの重厚な演奏が大好きでした。この曲を亀井聖矢さんが演奏されるとき唸り声が聞こえてきて「おっ!」と思いました。その凄まじさが伝わってきて大迫力の演奏。ピアノが鳴る鳴る!続いて「英雄」。冒頭からカッコイイ曲です。中間部のオクターブ演奏で多くの人が苦労するのに、なんとも軽々と弾いて余裕の演奏を見せつけられました。「左手が雄弁に語っているのが面白い」と、はじめさん。そして、「やるなイケメン」。
演奏前にアイスコーヒーをたくさん飲んだので、休憩に入ってすぐにお手洗いに立ちました。長蛇の列ができていましたが、キタラのお手洗いは数が多くて助かります。会場に戻る前にバーンスタインの第1回PMFの演奏動画をしばし観ていました。
「さぁ後半も楽しみだね」と、はじめさん。実は亀井聖矢さんの名前も知らないので、何故こんな忙しいお盆の時期にチケットを取ったのか疑問に思っていたようですが、納得したよう表情を浮かべていました。
ショパンのバラードはプログラムAが第3番&4番でした。プログラムBは1番&2番なので、つまり全曲演奏するという凄まじいプログラムです。隣の席の大子ちゃんも「バラード4曲って凄いね」と、ため息をつくように語っていました。
バラードは物語という意味ですが、どちらもテンポはゆったり気味に雄弁に語りかけてくる感じです。しかし、聴かせどころになると、一気に音に厚みが増してアグレッシブな演奏に惹きつけられます。ちょうどステージ中央の席でしたが、目が離せませんでした。特に4番は難しく複雑でショパンの演奏技法が尽くされている作品ですが、若干23歳の若さで、この表現力なのかと脱帽でした。
「この後にプロコの戦争ソナタっていうのも、また凄いね」と友人。有森博さんのリサイタルでよくプロコフィエフのソナタをお聴きしましたが、若い頃にばったり大子ちゃんに会ったことを想い出しました。
冒頭から強烈な和音。ケマル・ゲキチさんのような高い手首でズドン・ズドンと和音が打ち鳴らされて、まるで大砲のよう。実際にロシアはウクライナとの戦闘をまだ続けているので臨場感があり怖いくらいでした。第2楽章のカンタービレは半音階のメロディが幻想的で美しかった。そして、フィナーレは激しさがMaxに達して物凄いエネルギーとなり、会場全体に響き渡りました。なんて驚異的な音楽なのだろう。
大きな拍手に包まれてステージに登場する亀井さん。「激しい曲が続いたので、クールダウンを兼ねて演奏します」とショパンのノクターンOp.27-2がencoreの1曲目に演奏されました。聴きたかった曲です。これが素晴らしく綺麗で宝石のようでした。鍵盤を見ずに指が全ての音を制御して、確実に美しく整った音で演奏されます。亀井さんの演奏は繊細な音も絶品。
再び元気よく登場され「最後にもう1曲弾かせてください!」に、会場は大歓迎。高いポジションに指が置かれたので、すぐに「ラ・カンパネラ」だと分かりました。みんな大好きな曲で有名なので、冒頭の音が鳴ると会場から「おぉっ」という声があちらこちらから聴こえてきました。速いテンポで跳躍するのでプロでも音を外すことが多い曲ですが、なんとも軽々と確実に音を捉えて非の打ちどころがない演奏に、またまたスタンディングオベーションの嵐となり、会場の皆さんと素晴らしい演奏を讃えました。
帰りに朝里川温泉でサウナに入る予定でした。そして、せっかく再会した大子ちゃんにも「またね」といって、すぐに帰宅してピアノしなければ!という気持ちにさせてしまう亀井聖矢さんなのでした。