2013年11月29日(金)
場所:札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:及川浩治
●ピアノ・ソナタ第8番ハ短調op.13「悲愴」
Ⅰ.Grave-Allegro di molto e con brio
Ⅱ.Adagio cantabile
Ⅲ. Rondo
●ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調op.27-2「月光」
Ⅰ.Adagio sostenuto
Ⅱ.Allegretto
Ⅲ. Presto agitato
●ピアノ・ソナタ第21番ハ長調op.53「ワルトシュタイン」
Ⅰ.Allegro con brio
Ⅱ.Introduzione.Adagio molto
Ⅲ. Rondo.Allegretto moderato-prestissmo
——————-
●「エリーゼのために」イ短調WoO.59
●ピアノ・ソナタ第17番ニ短調op.31-2「テンペスト」
Ⅰ.Largo-Allegro
Ⅱ.Adagio
Ⅲ.Allegretto
●ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57「熱情」
Ⅰ.Allegro assai
Ⅱ.Andante con moto
Ⅲ.Allegro ma non troppo
《アンコール》
ショパン:ノクターン第1番op.9-1
——————————————————————————————–
先日の東京オペラシティで聴いたベレゾフスキーも凄かったですが、今宵の及川浩治さんのベートーヴェンは最初から最後まで全力の演奏。気迫漲る熱い熱いコンサートでした!及川さんのベートーヴェンは何度も聴いていますが、今日は特に素晴らしくて感動と勇気をもらいました。
ドカ雪の中、やや疲れ気味でコンサートホールに辿り着いたのですが、及川さんは相変わらず元気ですね。ニコニコ笑顔で登場し、座ったかと思うとジャーンと冒頭の和音が鳴り意表を突かれました。いつにもまして唸り声が凄まじいですが、全身で表現しているという感じに、まず圧倒されました。最初からこんなに飛ばしてスタミナが持つのかと心配になるくらいでした。「一音一音、一切妥協しない!」と、はじめさん。私も最近「悲愴」を弾いたばかりですが、及川さんの「悲愴」は、とても彫りが深くてクリアだなと思いました。私は弱い音はソフトペダルを踏んで弾いていましたが、及川さんのように敢えて強めにハッキリと弾く方がベートーヴェンらしいかなと思いました。そのかわりペダルの踏み方が半端なく細かいです。続いて「月光」。「悲愴」と共に、わりとコンパクトな作品で全楽章一気に弾ききると爽快ですが、第3楽章まで聴かせ方は流石だなぁと感服しました。一音一音に魂が入っています。前半の最後は「ワルトシュタイン」。今宵の5大ソナタの中で、何故か唯一勉強していません。「告別」や「葬送」は勉強しているのに…。早く取りかからなければと思いながら躊躇しているのは、第2楽章から第3楽章が長大だからなのかも知れません。構成がしっかりしていないと難しい曲ですが、今宵の及川さんの演奏を聴いて、弾いてみたい!という意欲が湧きました。ありがとうございます。
後半は「エリーゼのために」から。ピアノを始めたら一番に弾きたいという名曲ですが、意外とコンサートで弾くピアニストが多いのです。この曲を敢えて入れる理由は不滅の恋人テレーゼを印象付けたいからなのでしょうか。それなら第24番の「テレーゼ」が聴きたかったですが、時間的に6つのソナタの演奏は厳しいのでしょうね。続いて「テンペスト」。緊張の嵐のような曲でそれ故、演奏効果も高いですが、第2楽章をどう聴かせるかが難しいところです。演奏に入る前に同じ列の人が鼾をかいて寝ていました。もしかすると、及川さんには聞えていたかも知れません。静かな部分も敢えて強めにハッキリと演奏する事で眠気を吹っ飛ばす効果が出ていましたね。鼾は間もなく止まりましたから。第3楽章は静かに幻想的に終わりますが、弾き終えた及川さんの表情が印象的でした。演奏していると魂は時空を超えてしまうのかも知れません。弾き終えて自分の身体に戻ってくるというような感じは、舘野先生の演奏で何度も聴いていますが、今宵の及川さんも同じように感じました。いよいよプログラムの最後。「熱情」です。最後の最後にまたパワーとスタミナの要る曲が待っているのです!もう祈るような気持ちで聴き入っていました。いったいどこまで行くのか、ドキドキしながら聴き入っていました。会場の誰もがそうだったと思います。圧巻は第3楽章。火山の噴火の如し!正に全力投球で果敢に攻め抜く姿勢に脱帽しました。弾き終えて立ち上がった時に勢い余って椅子が倒れそうになる程でした。
同じ空間でこの演奏を聴いた聴衆は大興奮でした。「人間を超えているわ!一体どうなっているの!?」と涙目のはじめさん。ベレゾフスキーのような大きな身体なら分かりますが、どちらかというと華奢な感じがする及川さん。いったいどこからこのようなパワーのある演奏が出来るのでしょう!全身全霊で臨まないとこのような演奏は出来ませんし、私たちも滅多に聴くことは出来ません。ブラボー!!もしもベートーヴェンが及川浩治さんの今宵のコンサートを聴いたなら「俺様の曲って、こんなに凄かったっけ?」と、びっくりしたのではないでしょうか。あるいは「流石は、俺様が書いた曲だ!」と満足気に笑ったのでは?などど思ってしまうくらい、とてつもない事をやってのけたコンサートだったのです…。本当に凄かった。
放心状態の及川さんでしたが、アンコール演奏もありました。ショパンのノクターン第1番は効果的でしたね。ただスタミナがあるというだけではなく、一音一音に魂を吹き込みながら演奏するそのスタイルに感動しました。凄まじいまでの集中力ですね。この後、ロビーではサイン会があって大変だなぁと思っていましたが、すぐに及川さんが登場して暖かい拍手で迎えられていました。人気がありますね。そして、本当に元気が良いです。素晴らしいコンサートでした!