舘野 泉ピアノ・リサイタル2010

2010年10月22日(金) 午後7時開演
場所:札幌コンサートホール Kitara小ホール
ピアノ:舘野 泉/ヴァイオリン:ヤンネ舘野/チェロ:舘野英司/コントラバス:藤澤光雄/フルート:阿部博光/クラリネット:渡部大三郎/トランペット:福田善亮/打楽器:武藤厚志

演奏生活50周年記念おめでとうございます。2001年の40周年記念の翌年に先生が倒れられ脳溢血で右半身不随。左手のピアニストとしてステージに復帰されて早6年半なのですね。パンフレットの中に作曲家の間宮芳生さんが「病に倒れ、長い斗病のあと、左手のピアニストとして復活以来の、演奏への取り組みのすごい情熱と元気は、どこから来るのだろう。」と語っていらっしゃいます。今回のプログラムは、新聞にも掲載された末吉保雄さんの《アイヌ断章》。吉松 隆さんの組曲「優しき玩具たち」があります。どちらも世界初演で、札幌公演はその初日ということで、私たちは最初に聴いた聴衆ということになります。

プログラムは、先生にとって命のような曲であるという間宮芳生さんの《風のしるし・オフェルトルウム》から。”風の神の小指から吹き出すつむじ風のイメー”という事で、透明な音に目をつぶって聴き入りました。終曲はフィンランドの古い民謡で、はじめも終わりもなく旋回するようなシャコンヌ。先生の魂は演奏の世界にあり、演奏が終わったときに舞い戻ってくるかのようです。時折、はるか彼方の方へ行ってしまわれ、なかなか戻られないように感じる事さえあります。続いて、末吉保雄さんの4重奏曲「アイヌ断章」。フルート、コントラバス、打楽器が入ってステージが賑やかな感じになりました。作曲の末吉氏の指揮で「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」から厳かに始まりました。「トーロロ ハンロク ハンロク!」と鳴く蛙の声、びっくりするような打楽器の音では「侵入者」たちがアイヌの地に入り込んでくる恐怖が伝わってきました。コロポックル(伝説)も折り込まれ、演奏活動50周年を記念する大学の同級生である先生へのお祝いは大成功!演奏が終わった先生のお顔を拝見して、「感無量とは、まさにこういう事を言うのだなぁ」と思いました。
休憩時間に舘野先生のエッセイ「ピアニストの時間」と、EMIレコーディングス・コンプリートBOXより先生ご自身が選ばれた「セルフ・セレクション」、そして左手のためのピアノ作品集を購入しました。月刊ショパンの11月号に先生の記事が載っていて知っていましたが、CD24枚組みというのは凄いですね。楽譜の方はスクリャービンの「ノクターン」が大好きですが、楽譜を見て、これを左手だけで演奏するのは至難の技!両手で弾いても難しい曲だと思います。
後半は、アコーディオン奏者Cobaさんの《記憶樹》から。記憶樹は、人の感覚と繋がっている生命体だろうと書いてあります。躍動的なリズム、強烈な和音など、「深遠な予感」から「根源的な回想」まで全10曲演奏するには、相当なパワーが必要だと思います。しかし、その情熱的な演奏を聴いていると、左手だけで弾いているというのを忘れてしまうくらい圧倒的で、隣で聴いていた はじめさんも感嘆の溜息をついていました。プログラムの最後は吉松 隆さんの「優しき玩具たち」。この作品は左手ピアノ、クラリネット、トランペット、ヴァイオリン、チェロが登場します。ご子息のヤンネと弟さんの英司さんと共演できたら嬉しいとの先生のお願いに、吉松さんは「いくらなんでもそれは無理!」と思ったそうですが、書いちゃうところが凄いというか素晴らしいです。曲は「展覧会の絵」風にプロムナードに続く7つの小品。甘美なメロディーが会場を満たし一気に吉松ワールドに誘われました。先生とヤンネの演奏は、函館の五島軒でのディナーコンサート以来。あれから何年の時が経ったのでしょう。懐かしかったです。英司氏の暖かいチェロの音にも、うっとりしました。クラリネットは女性でしたが、パンフレットの名前は渡部大三郎さんですから、代役だったのでしょうね。元気な奏者だったので紹介して頂きたかったなぁと思いました。世界初演の初日ということで、皆さんちょっと緊張気味でしたが、素敵な演奏、そして作品でした。アンコールは全員が登場して、吉松 隆さんの編曲によるシベリウスの「カレリア行進曲」。とても楽しい演奏で、帰りの車の中でも聴いて帰りました。
74歳にして多忙を極める舘野先生ですが、その忙しささえも楽しんでいらっしゃるところが器が大きいなと思います。これからもお元気で演奏生活60周年に向けて更なるご活躍を!

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