耳の病と生まれた傑作

ベートーヴェンの生涯には何度かの人生の危機が訪れます。母親を亡くし働く気力をなくしお酒に溺れてしまう父親にかわり家族の面倒をみながら宮廷学士として生計を建てた少年時代。生涯悩み続ける難聴の病は20代の終わりに訪れました。そして、結婚したい女性を諦めたとき、最後は甥のカールの自殺未遂がベートーヴェンの心に相当なダメージを与えました。

ハイリゲンシュタットの遺書

二人の弟たちに宛てて書かれた耳の病気の苦悩を綴った手紙は1802年10月6日と10日の2通の手紙のことを「ハイリゲンシュタットの遺書」といわれています。しかし、実際にはこの手紙は投函されずに生涯ベートーヴェンの机の中にあったのだそうです。

手紙を書いたことによって生命的な危機を乗り越えた強靭な精神力で克服したといわれています。そこがベートーヴェンの音楽の凄いところだなぁと感じます。

傑作の森

ハイリゲンシュタットの遺書を書いてからベートーヴェンの音楽はドラマ性を強く帯びていきます。「傑作の森」とはロマン・ロランが名付けた有名な表現です。交響曲では第3番「英雄」、ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」1803年に書かれ、1804年~1805年に書けてピアノソナタ「熱情」が書かれました。ドラマ的ソナタを代表する傑作です。

運命の動機

「熱情」ソナタの第1楽章に運命の動機が何度の現れて緊張感が高まります。荒れ狂ったような激しさだったり、執拗な同音連打を重ねたり、まさにアパショナータ(熱情)というネーミングがピッタリ。第1楽章の最後は静かに閉じますが、第3楽章は火山の噴火のように終わります。

激しさに呑まれずクールに演奏

誰もが知っているベートーヴェンの代表作「運命」と同時期の傑作の森に書かれた「熱情」ソナタは起伏の激しい曲です。演奏する上では緊張感が絶え間なくつきまといます。第2楽章は安らぎの深い音楽ですが両端の激しさといったら。その激しさに呑まれることなくコントロールして演奏することが難しいのだと思います。

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