毎月の教室の新聞には生徒さんの紹介コーナーがあるのだけれど、自己紹介文には将来、何になりたいかを書く子が多い。次号の生徒さんは、伴奏者と書いてあった。本当はピアニストとかピアノの先生と書きたかったのかも知れないが、謙虚な気持ちでそう書いたのか、心から伴奏をする事が好きなのか、いずれにしても音楽に携わっていきたいようだ。小さい学校だと、ピアノを弾ける生徒さんは貴重で、次号の生徒さんも随分と頼られていたが、春からは中学生。小4になる妹が唯一ピアノを弾ける存在という事だ。私が子供の頃は、ピアノを習うためにはピアノを持っていなければという時代で、そもそもピアノを持っている人は少なかったので、ピアノを弾ける人も少なかった。私も小・中学校の頃は、ずっと伴奏者で、みんなと一緒に歌った事がなかった。
学生の頃、「伴奏法」という科目があったのだが、適当な相手を見つけ、互いの声楽の授業の伴奏を務めるというものだった。しかし、とんでもなく理不尽な方法で成績がつく事を後から知った。それは、伴奏した曲が合格したら成績に繋がるというものだった。つまり、選んだ相手が合格しないと成績にならないのだ。私の声楽の先生は、恐らく私に自信をつけさせるために、どんどんやってきなさいとうレッスンだったので、私の伴奏者は、どんどんポイントを稼げていた。彼女の授業は、どんなだろうとワクワク・ドキドキしながら参加したのだが、かなりインパクトのある授業だった。声楽のレッスンは発声練習から始まるのだが、それに重点を置いているようで私の出番は限りなく少ない。そして、その発声練習はというと、「ヒ・ヒーン!!」の連続。う、馬ですか!?残りの短い時間で曲のレッスンがあったけれど、来る日も来る日も一向に合格しない。深く追求するレッスンは結構だが、これでは「伴奏法」の単位を落としかねない。選んだ相手が悪かったのか、いやいや、そもそも、相手が合格した分、成績が良いなんておかしいと抗議したが、あなたのように沢山合格している人に協力してもらいなさいと言われた。彼女は何も悪くないのだけれど、私は心の中で彼女の事を「ヒ・ヒーン」と呼んでいた…
結局、試験当日に伴奏した1曲だけが合格となり、私はなんとか伴奏をさせてもらう相手を必死に探し、2曲合格した。当然、「伴奏法」の成績は悪かった。