2001/12/ 5 Wed.
場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:内田光子 / フルート:マリーナ・ピッチニーニ / クラリネット:アンソニー・マクギル
/ 歌唱:バーバラ・スコヴァ
ブレンターノ弦楽四重奏団
長いこと聴いてみたいと思っていたピアニストの内田光子さん。 ようやくその機会に恵まれました。 今回は室内楽ということで、独奏ではありませんでしたが、それでも、アンサンブルにおける内田光子さんの音楽性に触れるチャンスとばかりに出かけました。
プログラムの初めはブレンターノ弦楽四重奏楽団によるハイドンの弦楽四重奏 ヘ短調 Hob.Vー35。ヘ短調の憂いを含んだ哀しみが息の合った4人の演奏で奏でられました。ハイドン特有の整った美しい音楽は、ピアノで演奏するよりも室内楽で聴く方が私は好きです。続いて、モーツァルトのピアノ協奏曲イ長調K414。いよいよ、内田光子さんの登場です。 弦の音に内田光子さんのピアノが加わって、一際、華やいだ感じになりました。
初めて聴く、内田光子さんの音色。 ころころと明るく健康的で、みずみずしい音。
これこそモーツァルトの音楽なのね!と感嘆しました。伸びやかで、歌うような旋律が魅力的な曲でしたが、モーツァルトは父レオポルト宛てに次のような手紙を書いたのだそうです。「とてもかがやかしく、耳に快く、自然で空虚なところがありません。玄人だけが満足を得る部分がありますが、それでいて素人でも、なぜだか分からないまま満足するように書かれています。」......、なるほど、確かにそんな感じが伝わってきました。
後半は先日(11/ 16)も聴いたシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』。
初めて聴いたときは?と不気味な感じだけが後に残りましたが、今回は背景が見え余裕を持って聴くことができました。
道化役であるピエロによって、シェーンベルクは近代社会を皮肉り風刺しているのですが、この作品の語り手は女性なのです。ヨーロッパの舞台や映画で活躍し、女優としての名声が高いバーバラ・スコヴァさんによって全21曲が歌われました。いえ、演じられましたと言った方が良いでしょう。「無調」音楽の複雑な音程、歌詞をすべて暗譜で歌うというだけでも驚かされますが、舞台セットなど一切無いのに、迫真の演技と歌と語りとの絶妙なバランスで、狂気のピエロによって繰り広げられる不気味で残忍な情景が、ありありと表現され、震え上がるほど怖かったです。すぐ目の前で聴いていた私は、『私は笑い方を忘れてしまった!』という歌詞を歌われた時のバーバラさんの哀しい狂気の表情にゾクッと鳥肌が立ってしまいました。 ピアノ、フルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロの伴奏が、色彩豊かな音色や「無調」の響きによって、一層、不気味な世界を創り上げていました。
超一流の表現力によって、なんの苦労も無く私の目の前に現れたその世界は、11/16のコンサートノートに書いたような安らかな空間ではありませんでした。
まるで肝試しで神社に向かう時の様に鋭敏な感覚のまま、最後の一音まで惹きこまれてしまいまい、そして、演奏が終わり、初めて笑ったバーバラさんの素の顔に、ハッと我に返って、ホッとしました。
一瞬の間があって、盛大な拍手が鳴り響いた事は言うまでもありません。
2001/12/ 4 Tue.
場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:舘野 泉
演奏生活40周記念リサイタルの第3夜は、エストニアの現代作曲家ウルマス・シサスク(1060〜)の、星空に想いを馳せたピアノ組曲《銀河巡礼》(北の星空)で始まりました。 1980年から87年に書かれた全29曲は、演奏時間1時間を要した大作でした。 シサスクは14歳の時、満天に輝く銀河に感銘を受けてピアノ曲を書いたのだそうです。その音楽は、キラキラと輝く星の様子を高音部で、あるいは低音部の情熱的なうねりの中、駆けめぐっていく流星や、星屑の煌きなどの様々な表情を楽しめました。 演奏の途中で立ち上がりピアノの弦を直接鳴らして幻想的な響きを醸し出したり、29曲もの演奏でしたが少しも飽きさせることなく美しい宇宙空間を堪能し瞑想の彼方へと旅だってしまった気分でした。
後半のプログラムはシューベルトのピアノソナタ第21番 変ロ長調でした。
亡くなる2ヶ月前に書かれたシューベルトの鍵盤における〈白鳥の歌〉となった曲です。
舘野先生の演奏で何度か、そして他のピアニストの演奏でも何度か聴いていますが、何度聴いても不思議な音楽だなと感じてしまいます。
穏やかで、夢見るような歌の中に、時折鳴る低音の不気味なトリル。これは一体何?と何度シューベルトに尋ねたいと思ったことでしょう!
そういえば、Op.142No3の即興曲にも同じような低音の不気味なトリルがあります。
好きな曲ですが、この低音のトリルは「魔王」を連想するくらい悪魔的。 しかし、そこが魅力なのかも知れません。そして、色彩を微妙に変幻させる転調。 不思議な味わいのある曲です。
舘野先生の暖かい音色を聴いていると、シューベルトの音楽をとても愛されているのだなと伝わってきます。 演奏を聴いていて、ふと思い出したのですが、ひっそりと地下の練習室だったでしょうか、誰もいない所でシューベルトの音楽と一対一で向き合った時があったそうですが、とっても怖かったのだそうです。
私は、シューベルトの音楽を好んで弾きませんが、舘野先生の演奏されるシューベルトを聴くのは大好きです。
先生が愛されるシューベルトの音楽、いつか私も一対一でシューベルトと向き合ってみたいと思う日が訪れることを密かに期待しているところです。 演奏生活40周年、大変な歳月ですよね。
数え切れないほど先生から教わった事を大切に、これからも勉強していきたいと思います。
現在も精力的な演奏活動をされている舘野先生。 100歳までグラナドスの『恋する男たち』を弾いてドキドキさせてやりたいと思っていらっしゃるようです。
いつまでもお元気な先生で在り続けて下さい。
2001/11/ 20 Wed.
場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:エリアフ・インバル
ソプラノ:佐藤しのぶ
27歳の時、知人よりプレゼントされた、インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団による、マーラーの”交響曲第4番と第5番”のゴールドディスクを聴いて、強烈な印象を受けました。
以来、いつかインバルのマーラーを聴いてみたいと思っていましたが、ようやく実現しました。
今年65歳のインバル、当時の若々しいCDジャケットとはかなり印象が変わっていましたが、今年9月からは、ベルリン交響楽団の首席指揮者に就任され、貫禄を感じます。
それにしても、今回は、ベルリン交響楽団、指揮はインバル、ソリストが佐藤しのぶさん、だなんて、夢のような共演です!
席はインバルの指揮をじっくり拝見したかったので、舞台裏手のP席。指揮者に向かって真っ正面の席をとりました。
さすがに、手に汗するほどの迫力がありました。
プログラムの前半はR.シュトラウスの「4つの最後の歌」。 最晩年に書かれた作品で、「春」「9月」「眠りにつこうとして」「夕映えの中で」の4つの曲は、
私の知っている華やかな曲想とは正反対の落ち着いた静けさと、84歳で書かれたとは思えない若々しさを感じました。
第1曲「春」は、ヘルマン・ヘッセが若い頃に書いた叙情詩ですが、ソプラノの佐藤しのぶさんが澄んだ美しい声で語るように歌われました。 短い曲ばかりでしたが、時にはチェレスタの響きが”天上”を思わせ、最後の「夕映え」ではドラマティックな”別れ”を感じました。
拍手が鳴り止まず、佐藤しのぶさんは、何度もステージに呼び出されては丁寧に正面、左横、後方、右横とお辞儀なさっていました。
後半のプログラムは、マーラーの交響曲第1番「巨人」。 この曲の冒頭は、ふわっと柔らかいベールのようなオーケストラの音が魅力的です。
遠くの方からトランペットの音が聞こえてくる...と、思ったら、本当にステージの袖で吹いていたのですね。一度聴いたら、なかなか耳から離れない旋律の第3楽章は、フランス民謡の「ジャック兄さん」から借用したとのことですが、この旋律がカノンを形成し、途中から、街を歩くサーカス風、あるいは軍隊風だったりして、不思議なコラージュを作り出してしまうのですから、マーラーって天才!インバルは、各楽章を滑るようにつないでいて、ストーリー性を感じ、特に終楽章の嵐のように激しい曲想が印象的でした。
目を一杯に見開いて全身で激しく指揮するインバルを真っ正面に、轟き渡るオーケストラの圧倒的な音の渦中にいて、わなわなと震えるような興奮を覚えました。
ひたすらに圧倒的な音楽・音楽・音楽! その熱演の後にもかかわらず、アンコールの曲は、とてもアンコールとは思えない、”ブラームスの交響曲第1番”の第1楽章でした。 何度か書いていますが、ブラームスがこの曲にかけた歳月の凄いこと。(何と20年以上)
当然、曲想も厳粛で重々しい...。 私は、この曲を聴くと、自分の音楽に対する姿勢の甘さを感じて恥ずかしくなってしまいます。
でも、ブラームスのこの生真面目さと厚みのある音が大好きでもあります。 インバルのブラームスまでも聴けて、なんだかとってもラッキー!楽団の方々が「どう、良かったでしょう?」という感じで周りの観客席を伺っていた表情に、「ええ、とっても」と応えたくなるような素敵なコンサートでした。
2001/11/ 16 Fri.
場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
指揮・お話:佐藤紀雄
演奏:アンサンブル・ノマド
フルート:木ノ脇道元/クラリネット:菊池秀夫/ヴァイオリン・ヴィオラ:野口千代光/チェロ:古川展生/
ピアノ:中川賢一/ソプラノ:森川栄子
1997年、日本の現代音楽をリードするギタリスト佐藤紀雄さんによって結成されたアンサンブル・ノマド。若手の才能溢れる演奏家の集まりだけあって斬新なアイディアによるプログラムでした。
12音技法で20世紀初頭、音楽の都ウィーンを彩った3A。 A.シェーンベルク、A.ベルク、A.ウェーベルン。
偉大な音楽教師でもあったシェーンベルクのもとで、ベルクとウェーベルンは学びました。
今年はシェーンベルク没後50年にあたる年ですが、彼は2人の弟子よりはるかに多くを生き、また多くの辛酸をもなめたということです。
その独創的な作風は、後期ロマン派風の様式に始まり、無調、12音技法を確立して、後のクラシック音楽に決定的な影響を与えました。
音楽監督の佐藤紀雄さんのお話を交えながら聴いたコンサートですが、「今日、自宅へ帰った時、どんなコンサートだったかを一言で表現する事は難しいでしょう」と、おしゃっていましたが、まさにその通りでした。 最初に聴いたウェーベルンの「チェロとピアノのための2つの小品」を除いては! 唯一この曲は、メロディーのわかる聴きやすい音楽。 それはそれは甘美な音楽でチェロの音色にうっとりとして、涙がいっぱいになりました(咳を我慢していたせいもあるのですが...)。 ベルクの「クラリネットとピアノのための4つの小品」から、え?・え?・え?の連発になってしまいました。徹底した無調と自由なリズムによる音楽に翻弄されつつ、続くウェーベルンの「ピアノのための変奏曲」に期待?!します。
ピアニストの中川賢一さんの演奏は好感が持てましたが、感想はやはり?!。ここで、佐藤紀雄さんが細かく分析して教えてくださいましたので、少しづつ、なるほどと思いましたが、演奏する側も覚えるのが大変な曲なのだそうです。休憩を挟んで、いよいよシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」です。シェーンベルクは今まで全く聴いた事がありませんので、どんな音楽なのかと楽しみでした。この曲は、12月の内田光子さんの室内楽でも取り上げられています。アルベール・ジローの詩に刺激され、一日一曲ずつ、まるで憑かれたかのように作曲されたそうです。そして、この作品はシェーンベルクの声楽作品の代表作であるだけでなく、表現主義の最高傑作なのだとか。
「月に酔い」から始まって21曲もある、ピエロの哀しい唄は、時にはゾッとするほどグロテスクで怖いものでした。終始一環して楽しいという調べは感じられませんでした。音程が難しく、よく歌えるなぁ、さすがにプロだわ!と感嘆するくらい難しい音楽でした。しかし、その難しい音楽を無理に理解しようとせず、自然に受け入れられるようになってきたとき、実は自分が安らかな空間に漂っているのではないかとさえ思えてくるのです。 それはまさに先日、横浜みなとみらいホールで聴いたブレンデルの後半の演奏のようでもありました。
2001/11/ 3 Sat.
場所:神奈川県立音楽堂
ピアノ:シプリアン・カツァリス
1993年にNHK教育チャンネルで「ショパンを弾く」という番組が放映されましたが、その時、講師であったカツァリスを実は、その時初めて知りました。カツァリスのパーソナリティと、イマジネーション豊かなレッスンが面白くて、毎週楽しみに見ていました。
番組の後、札幌でコンサートを聴く機会がありましたが、今回はそれ以来で、オールショパンというプログラムでした。チケット購入時には、わざわざ北海道から聴きにくるのだからと親切な方が良い席を用意して下さり、その心遣いがとっても嬉しかったです。また、会場の県立音楽堂は、古い建物ですが、"木のホール"と呼ばれていて、音響の美しさは海外でも定評がある素晴らしいホールでした。
前半は小品10曲を続けて演奏されました。 途中で一切の中断を入れたくないとの事で、時間を少し遅らせての開演となりました。 葬送行進曲 ハ短調 Op.72から、厳かに始まった演奏は、ドラマのような流れを感じました。「幻想即興曲」や「軍隊ポロネーズ」など耳馴染みのショパンの曲でも、カツァリスの手に掛かると、まるでショパンの曲をベースにカツァリスがアレンジしたかのような独創的な演奏で、次はどんな風になるのかしらと、最後までわくわくしながら聴くことができました。
最後はノクターン遺作 嬰ハ短調。TVのレッスンで取り上げられた曲です。繊細な曲想ですが、「真珠の輝きの様な美しさで」だったかしら?そのようなアドヴァスをされていたのを思い出しながら聴き入りました。後半の最初も「ソナタ第2番」の”葬送行進曲”からです。この主題は誰でも知っているあのフレーズですが、この曲をショパンが作曲したと知っている人は意外と少ないかもしれませんね。
深くてやり場のない哀しい音から一転して、びっくりするくらいの音量で怒りを感じさせるようなフォルテ!まさか、会場で咳をしている人に向けてではないでしょうね。最後の音が鳴り、ガクッと首をうなだれて、まるで誰かの為に演奏されたのでしょうかと思うほど心情がこもった演奏でした。
プログラムの最後はソナタ第3番。スーパー・ヴィルトゥオーゾ(超名人)と呼ばれているカツァリスを目の当たりにした凄い演奏でした。
ショパン特有の哀しく美しいP(ピアノ)、まるで汽車がトンネルに入る時に空気の壁を突き破る感じのように、エネルギーが凝縮された分厚いF(フォルテ)、内声が浮き立ち、聴いたことのないような音楽にさえ聴こえてきます。
自由自在に音を操り最終楽章まで息をするのを忘れてしまいそうなほど、惹きこまれる演奏でした。
アンコールは2曲。 初めて聴く曲でしたがフランス人らしい、お洒落でチャーミングな曲。
2曲目のハバネラのリズムで演奏された「Adios」が気に入りました。 演奏前にそれぞれ英語で簡単に説明してくださいましたが、最後の曲に、にこっと微笑みながら「Adios」なんてタイトルを選ぶところなんて憎い演出ですよね。 余談になりますが、ベートーヴェンの交響曲をリストが編曲したピアノ独奏版を全曲レコーディングしたカツァリスのCDを持っていますが、これは前人未踏の離れ技としか言いようがないです。
本当、世の中には凄い人がいるものです! ときどき音をとる時に手首を上に向けて優雅な感じでとるのが印象的ですが、技術的に素晴らしいだけでなく、演奏している姿もとっても素敵なカツァリスのコンサート。 必見ですよ。
2001/11/ 2 fri.
場所:横浜みなとみらいホール
ピアノ:アルフレッド・ブレンデル
10年以上も前になりますが、ブレンデルの演奏を聴いた事があります。 大ピアニスト、ブレンデル。私が若かったのもありますが、当時の印象は正直なところ、気難しい感じがして聴いていて少々疲れを感じましたので、もうコンサートに出かけることはないかも知れないと思っていました。 今回たまたま横浜へ出かける事になり、なにか良いコーサートは無いか探していたところ、一度行ってみたいと思っていた、みなとみらいホールで運よくブレンデルの70歳記念リサイタルのチケットを取ることが出来ました。 コンサートを聴いてみて、大ピアニストといえども、時とともにその演奏は変わるという、考えてみれば当たり前のことに気づかされるとともに、たった一度のコンサートの印象だけで、”もう聴かないかも知れない”と思ってしまった自分の愚かさを恥じる結果となった、素晴らしいコンサートでした。
ブレンデル、今年で70歳になるのですね。プログラムの内容は、ハイドンのソナタ ト短調、モーツァルトの幻想曲ニ短調、ソナタ K.310、ベートーヴェンのディアベッリの主題による変奏曲と大変渋い内容でした。椅子に座るなりスーッと出てきたブレンデルの冒頭の音、心が洗われるような美しい音でした。ト短調の哀しみを湛えた、彫りの深い音。
モーツァルトの軽やかで、粒の揃った完璧な美しさ。 全くノイズというものが存在しない、ステージでの緊張感も感じさせない、ひたすら安らぎの空間となってしまいました。
目を凝らして演奏を見るとかペダルをどう踏んでいるとか、そういう事はどうでも良くなって、ただこの音楽に浸っていたいと感じさせる演奏です。 それほど自然な空気のような音、呼吸しているような演奏なのです。 驚きました! 後半のベートーヴェンは33もの変奏曲です。 まず単純によく暗譜できるものというだけで感嘆してしまうくらいの膨大な曲。 こちらも完璧なまでに自然な音楽でした。 その音の美しさに何度も心地よくなって子守歌のように感じてしまったわけですが、はっとして周りを見渡すと、聴衆の誰もが、音を楽しみ慈しんでいるかのようでした。 正に演奏する側も聴く側も大変な曲なのにと唸るくらい素敵な空間を共有していたのですね。マイルドで心に染み込んでくる美しい音に、アンコールはありませんでしたが、いつまでも拍手が鳴りやみませんでした。
2001/11/ 1 Thu.
場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:舘野 泉
第2夜は、グラナドスのピアノ組曲『ゴイェスカス』とスカルラッティのソナタより7曲でした。
もう何年も前になりますが、何回目かに聴きに行った舘野先生の演奏会で、グラナドスの傑作『ゴイェスカス』に出逢いました。
館野先生は文章もとても上手で、いつもプログラムには素敵な文章を載せられているのですが、演奏前にプログラムを読んでいるだけで、夢中になったことを覚えています。
当時は、舘野先生が、この作品に惚れ込んで30年くらいという事でしたが、”やっと夢がかなって演奏会でお披露目する”
という決意が書かれてあり、その事にまず、驚かされました。 30年以上も暖めていた曲だったのですね。
『ゴイェスカス』〈ゴヤの絵風の場面集〉は、一つの幻想的な愛と死の物語を踏まえて書かれた、ピアノ用の組曲です。
ゴヤのカンヴァスに描かれた、マハ(女)とマホ(男)の人生が織り成す世界。
「粋であること」が最優先だという生活信条。 グラナドスは、そういう「ゴヤの心とパレットに惚れた」と、手紙に書いたそうです。
ところが、演奏会の反響からオペラに改作し、初演され喝采を受けての帰路、乗り合わせた英国汽船が、軍艦と誤認され、ドイツ潜水艇に攻撃され、48歳のグラナドスは英仏海峡に沈んでしまいました。
まさに命をかけた作品になってしまったのですね....。 小樽の北一ガラスのランプの炎がゆらゆらと揺れる中、約一時間の壮大なドラマを聴いて、当時の私はすっかり感動していました。
華麗で妖艶な響きとリズム。目の前で幾つものドラマが繰り広げられているようでした。ピアノを弾いてきて、こういう世界があったのかとショックすら受けたのです。
今では信じられないのですが?!シャイな私が演奏会後、その気持ちを伝えたくて先生と初めて話しました。先生がこの組曲の名旋律である「嘆き、またはマハと夜うぐいす」はどうだった?と、質問されてボキャブラリーの乏しい私は咄嗟に「素敵でした」としか返事できなかったのが後で残念でした。
昔の話が長くなってしまいましたが、そんなことを思い出しながら、今日の『ゴイェスカス』を聴きました。
長いこと先生の音楽に触れていると、あぁ、今日は乗っているなとか、ちょっとお疲れのようだわとか、なんとなく伝わってきます。今日は、伸び伸び演奏されているといった印象を受けました。あれから何度か先生の『ゴイェスカス』それから、先生によって知ったラローチャのCD、そして演奏会と聴いてきました。
ピアニストにとって非常に難曲であるこの組曲。 私は「嘆き、またはマハと夜うぐいす」だけ何回か弾いてみたのですけど、その繊細な音楽を弾きこなすまではまだまだかかりそうです。
コンサートですと、スカルラッティの方が先にというのが一般的ですけど、強烈なスペイン音楽の毒消し?と、先生ご自身がスカルラッティの音楽を楽しみたかったということで、あえて今回は、スカルラッティを後に演奏されました。
確かに後半は明るく爽やかなステージ展開でした。
「555曲もあるソナタはどれも短くて、音も少ないが、この宇宙のあらゆるものが入っているようだ。私にとって、彼はこれから最も大事な作曲家になると思っている。今回はそのスタートだ。」 プログラムより
2001/10/16 Tue.
場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:舘野 泉
チェロ:ブリンディース・ハトゥラ・ギルファドティル
今年のノルディックライトSAPPOROは、芸術監督である舘野 泉さんと、チェロのブリンディースさんによるデュオ・リサイタルとなりました。
アイスランド出身のブリンディースさんの演奏を聴くのは今回で3度目です。
私にとって、室内楽は心からリラックスして聴ける音楽であることと、プログラムの曲目がシューベルトのアルペジオーネ・ソナタ、ピアソラのタンゴ、グリーグのチェロソナタとありまして、この季節にふさわしいなと、とても楽しみでした。
「アルペジオーネ」という楽器のために作曲されたソナタ イ短調ですが、「アルペジオーネ」とは1823年ウィーンで発明された楽器なのだそうです。チェロの大きさでギターのようなボディーを持ったことから「ギターヴィオロンチェロ」などとも呼ばれたのだとか。
しかし、この楽器はウィーンで流行しないうちに姿を消し、アルペジオーネのために書かれた、この作品は、今日ではチェロによって演奏されるようになったのだそうです。この曲を以前、舘野先生と北欧の男性チェリストの演奏で聴いた時、その旋律の美しさと、すぐ覚えて歌えてしまうような親しみやすさから、この曲が好きになりました。 シューベルトの作品の中で、一番好きな作品です。
ブリンディースさんの演奏は、女性ならではの繊細さを感じました。 イ短調の優美で哀愁漂う演奏に第3楽章まで夢見心地な気分でした。
続くピアソラは、「アディオス・イニーノ」「ル・グラン・タンゴ」の2曲。
一転してエキゾチックな雰囲気です。 昨年は、お二人にヴァイオリンを加えたトリオで全国ツアーされていたこともあり、もう息がぴったり!
ぞくぞくするような演奏でした。 最後はグリーグ唯一のチェロソナタ。 こちらもイ短調です。 同じイ短調でもシューベルトのそれとは、ぐっと曲想が変わり、グリーグらしい清々しさと、ほとばしる情熱を感じました。 全楽章を演奏しきった感じが、まるでコンチェルトのような重みにも感じました。演奏も、さぞ体力がいるのでしょうね。余談になりますが、舘野先生の今は亡きお父様はチェリストだったこともあり、特にチェロとのデュオには、なんともいえない暖かい空気を感じます。最後に、アンコールで演奏されたチャイコフスキーの「感傷的なワルツ」。この曲も大好きな曲ですが、ブリンディースさんの演奏が、とっても素敵でした。
2001/9/20 Thu.
場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:舘野 泉
なんと、私が生まれる前から演奏生活されている舘野 泉先生。私は20年近く先生のコンサートを聴いていることになります。毎年、何回か舘野先生の暖かい音楽に触れることで癒され、勉強させて頂いてきました。
最初に聴いたのはカワイのコンサートで、その頃は名前も存じていなかったのですが、演奏を聴いて大変感動したのを今でもはっきり覚えています。夏の暑い日でしたが、シルバーの宇宙服?のような衣装で熱演されていました。
以来、名前を見かけてはコンサートに出かけて、いつしかファンクラブの方にも名前を覚えられてしまい、ファンクラブに入っていないのに案内が届くようになっていました。
前置きはこのくらいにして、本題に入りましょう。
今回は《青春》というタイトルが付いていて、プログラムはデビューコンサートと同じ内容ということでした。
シューマンの幻想曲以外は30数年ぶりの演奏なのですって! ご自身も、懐かしかったでしょうね。
プログラムの最初、エネスクのソナタ第3番という事ですが、エネスクなんて初めて聴きました。
曲は柔らかく流れるような感じから、ドビュッシーに近い感じもありましたが、聴いた後は「うーん、難しそうな曲」と言うのが正直なところです。
続いて、先生が聖書のように感じられて40年間弾き続けてきたというシューマンの幻想曲。 この曲を弾くときいつも「わが心はいま大風のごとく君にむかえり 愛人よ」と歌いだされる高村光太郎作「智恵子抄」の一節を想われるそうです。
私も、この曲の第1楽章を発表会で弾いたことがありますが13分もかかる大曲で、シューマンがクララを想う、あまりにも情熱的で切ない恋心に、弾くたびに涙が流れました...というのは少しオーバーかもしれませんが、それほど素敵な曲です。先生の演奏を聴くのは何度目になることでしょうか、いつも、その情熱的な演奏に感動してしまいます。
休憩を挟んでラフマニノフの前奏曲より4曲、演奏順が作品順ではなかったのですが、ソナタのように見立てて構成されたとのことです。
粋な選曲ですね。 ラフマニノフの魅力は、ほとんど麻薬的だとか。余談になりますが、小学生の時、お母様に連れられて映画「子鹿物語」を観に行ったはずが、見た映画は隣で上映していた「逢引き」だったそうです。
ラフマニノフのピアノコンチェルト第2番が甘く流れる切ない物語ですよね。そういうことって意外と大人になっても覚えているものですね。
私も5歳の時、叔母に連れられて「十戒」を観ました。 さすがに5歳の女の子にこの映画は難しくて、ほとんど寝ていたのですが海が裂ける場面だけ起こされて、いつまでもそのシーンが記憶に残っています。
プロコフィエフのソナタ第2番、先日の有森さんのリサイタルでもプロコフィエフを聴きましたが、”きっと弾けたら面白いだろうなぁ”と思いながら、多彩なリズムと音を楽しみました。
さすがにデビュー当時のプログラムとあって、パワフルな選曲で、演奏後は少々お疲れのご様子。
いつもでしたらアンコールは、先生の方からあと1曲!なんて感じなのですけど、この日はシベリウスの小品を2曲弾いて下さいました。
久しぶりに聴かせて頂いて嬉しかったです。 第2夜も楽しみにしています。
2001/8/27 Mon.
教室の発表会の直前に有森 博さんのリサイタルへ出かける機会が多くて、有森さんの演奏を聴いて気合が入るようなところがあるのですが、今年も、やっぱりピアノって良いなぁと、実感してきました。
編曲ものから始まるプログラムでしたが、グリンカ/バラキレフの「ひばり」が最初でした。 「Imaginary
Path」でとりあげたので、その繊細な表現が難しかったのが記憶に新しいですが、生で聴く演奏はとっても勉強になります。今回は私が「フェザータッチ」と勝手に名づけてしまった有森さんの「繊細なタッチ」が、一層際だっていてとても柔和で綺麗な演奏でした。
2曲目のアリャビエフ/リストの「うぐいす」も、美しく繊細な曲で、私の”いつか弾いてみたいな”リストにさっそく追加しました。
続いてベートヴェン/リストの「運命 第一楽章」。
この曲は何度となく遊びで弾いたことがありますけど、オーケストラを独りで弾きあげなければならないので、そのパワーは並大抵のものではありません。
いつもはピアノから離れると照れ屋の青年のようになってしまう有森さんですが、この曲の演奏後はベートーヴェンのような顔つきになっていたのが印象的でした。
その後のメンデルスゾーンの無言歌から数曲は、プログラム効果満点で、演奏する側も聴く側もリラックスしての音楽。
次のショパンのバラード第2番も、何度となく弾いている曲ですが、興味深い演奏でした。
この曲は優しい表情から激変する嵐のようなパッセージに移るとき、私ならストレス発散的な演奏をして楽しんでいましたが、有森さんの演奏は、逆に意表をついたかのように柔らかくゆっくりな入りでした。
この時もやっぱり「フェザータッチ」でした。
一部の最後はプロコフィエフのソナタ第3番「古い手帳から」でしたが初めて耳にした曲です。リズミカルで面白い音楽でした。休憩を挟んでの第2部も同じプロコフィエフのピアノソナタ第6番「戦争ソナタ」。 演奏時間30分という大曲で、しかも音もリズムも難解!
終楽章を弾き終えた有森さんは汗だくでした。
聴いている側は「何て曲なの!しかし、よく指が動くなぁ」という感じで圧倒されました。
しかし、難易度という点では凄かったですが、曲としては難解で、私にはまだ理解できない部分が多かったです。
さて、お楽しみのアンコールは、いつものようにノリノリで立て続けに6曲も演奏してくださいました。
戦争ソナタの演奏直後からですよ!リストの「カンパネラ」は高音がとても美しい鐘の音で、どんどん迫力を増してエキサイティングなテンポで、手に汗して聴き入ってしまいました。
ブラボー! チャイコフスキーの四季より「舟歌」が、またしんみりとして涙が止まらない女性がいらっしゃったほどです。この中間部も繊細な歌が流れ、私だと元気よく、はぎれよく弾いていたところも、しっとりとした演奏で、「あぁ、なるほど」という気持ちで一杯でした。
最後はバッハの「主よ人の望みの喜びよ」でした。何故か最近弾いたことがある曲ばかりで、嬉しかったです。
2001/7/29 Sun.
場所:札幌芸術の森・野外コンサート
指揮:佐渡 裕/チェン・ウェンピン
毎年恒例の野外コンサートです。今年は佐渡
裕さんの復帰で大喜びの母。数年前から、すっかりファンになったようで朝早くから気合いを入れてお弁当を作ってくれるので私も大喜び!?PMFも年々、人気上昇中でキタラでのコンサートでも完売公演が多くありましたし、この日も大盛況。そして、何よりも聴衆のマナーの良さに驚きます。例年ですと、ワインを飲んで良い気持ちになり、ちょっとウトウトなんてしてしまいますが、プログラムの内容も渋めであったにもかかわらず、周りの皆さん、真剣に聴いています。けっこう小さいお子さんも多かったのに、感心しきり。これも音楽のマジックなのでしょうか?
コンサートの方は、爽やかな風に包まれて室内楽から始まりました。昨年に続いて「青少年のための音楽会」ではユニークなトークを交えて楽しい演奏でした。今回のテーマは”バレエの中の鳥たち”。チャイコフスキーの『白鳥の湖』と、ストラヴィンスキーの『火の鳥』は、どちらも鳥が中心的な役割をはたすバレエで、お話は、愛の力が悪にうち勝つという内容ですが、音楽の方は、それぞれ全く違うから面白いですね。
そんな不思議な魅力にあふれたバレエ音楽を、踊りなしで聴いたわけですが、聴いていると情景がぼんやりと脳裏に浮かんでくるのですから、音楽って素敵です。
最後はお待ちかねの佐渡 裕さん指揮のPMFオーケストラ演奏会。印象深かったのは、プログラムの最後に演奏されたブラームスの交響曲第1番 ハ短調。ブラームスらしい思い切り渋くて重厚な曲です。22歳の若き日に書き始めたそうですが、43歳にしてようやく完成。
20年以上もかけて作られた曲だそうです。 ベートーヴェンによって交響曲がにわかにシリアスな音楽へと変わって、曲の重みが格段に増してしまったということが、志の高いブラームスにそうさせたのでしょうか?
ハ短調特有の劇的で緊張感のある音楽は大柄でダイナミックな佐渡
裕さんの指揮と相まって、聴いている側も、熱くなってきます。
実は、お天気の良かった出だしも、夕方には、すっかり気温も下がり、雨も落ちてきていたのですが、そんなことを忘れさせるほど圧倒的な高揚感がありました。
アンコールは同じくブラームスのハンガリー舞曲
第5番。 とても有名な曲で、アンコールでもよく聴きますけど、この曲の演奏が始まると、会場が沸きますね。
テンポの切り替えが面白くスリルがあって、私もピアノ連弾するたびにアンサンブルする喜びを感じてしまいます。
2001/7/21 Sat - 22 Sun
場所:くとさんパーク
出演:鈴木重子 ウイズフレンズ 渡辺かづきカルテット/チューチョ・バルデス ラテングループ/カルロス菅野 プレゼンツ 熱帯倶楽部 スピリット オブ リズム/
G.M..PROJECT/マリーン ウイズ カルテット/日野皓正 クインテット
一昨年に聴きに行ってとても楽しめたJazzフェス。 昨年はPMFと重なってしまい行けませんでしたが、今年は聴きに行くことができました。
2年間の間に、とても充実してきたなといった印象をもちました。
その出演奏者の豪華な顔ぶれには驚いてしまいます。
一日目、快晴の野外コンサート。 最初はアマチュアバンドの演奏です。 アマチュアと言っても、素晴らしい演奏です。
開放的な雰囲気の中、ビールも美味しく心地良い気分になってきたところでプロの部。
トップバッターは鈴木重子さん。なんともいえない不思議な魅力のある女性です。その歌声を聴いていると、鳥になって、どんどん遠くまで飛んでいってしまいそうな感じ。
私には、とても真似できないスローなテンポでの語りと声量豊かで力強い歌とのギャップがまた不思議。
続いて、チューチョ・バルデスさん。 とっても大きな人です! なんだか、もの凄いピアノ演奏を見せて!頂きました。
メンバーの1人1人に、こんなことできるか?と言う感じでピアノで問いかけての演奏バトルは面白かったです。 メンバーの人たちもツワモノ?揃いで、バルデスさんがピアノで演奏する複雑なリズムのフレーズを、ボンゴ・ベース・ドラムで見事に表現してしまうのです。
ありとあらゆるテクニックが繰り広げられて、CDのタイトルにもなっているそうな「超絶のピアニスト」そのものでした。
最後はカルロス菅野さんが野呂一生さんや神保彰さんらを集めたバンドの登場。
当然、盛り上がりますよね。 誰をとっても一流揃いですが、圧巻は神保さんのドラムソロ。他のメンバーが全員楽器を置いて舞台の袖に引っ込んでしまい、ドラムだけというのも憎い演出。 とても1台で演奏しているとは思えないような複雑で、そしてメロディアスなドラム。 たっぷり一曲分はあったと思いますが、少しも飽きさせない演奏でした。 そしてアンコール2曲目、突然始まった、バルデスさんのグループとのJamセッションは凄かった。
2日目、今日のアマチュアバンドも上手でした。 ビールを飲みながらくつろいで聴いていると、プロの部の前から雨がポツポツ落ちてきました。 結局雨は次第に勢いを増し、最後まで止むことはありませんでした。
しかし、雨の中でも素晴らしい演奏が繰り広げられて根性の無い私でも最後まで聴いてしまうほどでした。
ケニー・ギャレットさんのG.M.PROJECTのベースのチャーネット・モヘットさんの演奏は、楽しくて仕方ないって感じ。 ベースを回したり、座ったり、終始ニコニコ顔で、降りしきる雨も忘れてしまいそうでした。
マリーンさんのボーカルはセクシーで、圧倒されてしまうくらいの声量でした。
最後は最も楽しみにしていた日野皓正さんのトランペット。
大好きなナンバー、「アイ・リメンバー・クリフォード」の静かに、そして情熱的な演奏に感動してしまいました。
この曲のクリフォード・ブラウンは、25歳で亡くなった名トタンペッターなのですよね。
日野皓正さんはトークも楽しくて素敵でした。
でも、突然一般席の最前列中央に男の人が二人立ってしまって、舞台が全然見えなくなってしまいました。
野外とはいってもちょっと非常識。 PMFなら会場係が注意するのでしょうけど、このJazzフェスでは会場係は何もしないのですね。
これにはさすがにおしとやかな?私も怒りまして、「見えないんですけど!」と思わず注意してしまいました。(^^;
そうさせるくらい、日野皓正さんのステージは良かったです。
あっというまに時間は過ぎてしまいましたが、アンコール曲がまた面白かった!
あれ?どこかで聴いたメロディーと思ったら、なんと!演歌の「川の流れのように」です。
そういえば最後の曲の前に、「今日は雨がひどくて、道路が川の流れのようになっているから気をつけてね」なんておっしゃっていましたが、これは前振りだったのか、はたまたその台詞から突然この曲の演奏を思いついたのか、よくわからないのですが、これがとても格好良くて、会場の熱気も一段と高まり、おまけに雨まで止んでしまいました。これは帰りが楽になったとちょっと安心
...と、ここまでは良かったのですが、 この後突然、日野皓正さんがタップダンスを始めた途端、
せっかく止んだ雨がまた...まるで雨乞いのダンスです! ダンス自体はほんと上手でしたけど。
演奏にダンスに、年齢を聞いてびっくりするようなパワフルぶりでした。ミュージシャンって本当にいつまでも若い!
ダンスが終わって息つく間もなくトランペットを吹き始めたのですが、そうすると今度は雨が小降りになり、結局帰る頃には止んでました。 天気までも自在に操るとは、恐るべしステージでした。
2001/7/20 Fri.
場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:シャルル・デュトワ
PMF全プログラムの中で最も期待した公演です。ラヴェルの「スペイン狂詩曲」、ドビュッシーの「海」、そしてストラヴィンスキーの「春の祭典」をデュトワさんの指揮で聴けるとは!この日の公演も祝日とあってチケットは完売でした。演奏会の前にプレトークが入り、曲目の解説がありました。ちょっとしたコメントでも、この曲ではこんな所を聴いてくださいという解説があると、演奏会はより楽しくなりますね。ラヴェルの「スペイン狂詩曲」は、ピアノソロとオーケストラで何回か聴いたことがありますが、「オーケストレーションの魔術師」と言われているラヴェルならではの色彩豊かな音楽です。エキゾチックな南国の夜の神秘的なムードが漂ったかと思えば、舞曲のリズムに乗って多彩な楽想が奏でられ、ハバネラの独得の物憂いなリズムで印象的な雰囲気に導かれて最後は祭りの活気溢れるカラフルな終曲。またしてもパーカッションの緊張感溢れる演奏、正確で華麗なリズムに魅力を感じました。ドビュッシーの「海」は、葛飾北斎の有名な波の絵にインスピレーションを得て書かれた作品です。「もし音楽家にならなかったら船乗りになっただろう」と、ドビュッシーは答えたのだそうですが、なるほど、海のイメージが鮮やかに描かれているこの名作に触れると、海への憧れだったのかということが頷けます。ハープを琴のように感じさせる東洋的な響きが印象的でした。ドビュッシーの音楽には、いつも風との対話があるのも特徴だと思います。「海」を聴いていると、コンサートホール全体が大きな船になって、波に揺られているような気分になりました。最後はストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」。ファゴットの独奏から入るのですが、このフレーズは神秘的でうっとりしてしまいます。まさか、この後にそんな展開になろうとは!といった曲。若い娘を生け贄として神に捧げる異教の祭典のイメージで書かれた曲だけに壮絶です。ティンパニーの強烈な連打は熱狂的な踊りの末に倒れて息絶えるといった衝撃的なもので、聴いていて本当に怖くなってしまいます。まるで映画「ジョーズ」で鮫が迫ってくるような迫力。以前、TV放送で、この曲がいかに難曲であるかということを聞いて知っていただけに、今日の演奏を聴いて、さすが世界中から選りすぐられた学生オーケストラなのだなと思いました。
2001/7/8 Sun.
場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:小山実稚恵
今年もPMFの季節がやってきました。昨年に続き芸術監督はシャルル・デュトワさんですがN響の音楽監督でもありTVでもお馴染みですよね。日曜日ということもあり、チケットが早くから完売していた公演でした。私自身は今年初めてのオーケストラでしたのでウキウキとした気分で出かけました。
のっけから面白い曲を聴いたのですが、それは「シンフォニア・ダ・レクイエム(鎮魂交響曲)」という曲で、イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンによる作品でした。幻想的な雰囲気が漂って、透明感のある響きが初夏の季節にふさわしかったです。パーカッションの緊張感ある動きも、見ていてドキドキしてしまうほどでした。続いて、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」。ソリストは小山実稚恵さん。2年前にもPMFでN響を聴きましたが、その時のソリストも小山実稚恵さんでした。私は、ピアノコンチェルトの中で、この曲が一番好きで中学生の頃からのお気に入りです。なんといっても、ピアノから入る冒頭の部分が格好良いです。それに甘く切なく、お洒落なウイットに富んでいて、素敵な叔父さまといった感じで、何度聴いても魅力的な曲です。
CDでも楽しめますが、やはりコンサートで楽しみたい曲のひとつでしょう。小山実稚恵さんのピアノは、緊張感に包まれながらも、自然でしなやかな力強さがあります。
細い身体からは想像できないようなパワーです。また、速いパッセージ、同音連打などでの腕の使い方が勉強になります。柔らかく楽に音を掴んでいるといった感じで、見ていても惚れ惚れとするくらい流麗な動きなのです。
オーケストラと一体になった端整で素敵な演奏に満員の大観衆から拍手の渦。
何度もステージに引っ張り出されていました。最後は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。
このプログラムの流れで最後に「運命」を持ってくるとは、前半の甘美な世界から、一気に質実剛健の世界へ飛び込んで完全燃焼になるのか、あるいはベートーヴェンらしいロマンティックな部分を引き出そうとしているのか、いずれにしても期待高まる「運命」です。 結果から言うと、それほど奇抜な何かを感じたわけではありませんでしたが、実はこの曲、デュトワさんの指揮を一番楽しめました。各楽章とも、素晴らしい演奏でしたが、面白かったのは第4楽章。最前列のチェロ奏者の1人に集中的に指揮するデュトワさん。 指揮棒をチェロ奏者に突きつけて激しく左右に振ります。それを受けて、必死に演奏するチェロ奏者。
えっ!「運命」って、チェロがそんなに大事だったかしらと思ってしまうほどで、見ているだけで惹きこまれてしまいます。こういう状態の時に素晴らしい演奏が生まれますね。
指揮者とオーケストラが一体になった時の演奏を聴くのは最高です。演奏する側も聴いている側も自ずと感情が高まっていくのが生演奏の魅力なのでしょうけれど、今日の演奏は、その臨場感をひしひしと感じて”エキサイティング・ハ短調・サンディ!?”と名付けてしまった私です。めずらしくアンコールなしで一緒に聴いていた母はガッカリしていましたが、私は大満足でした。
PMF2001、キタラでのコンサート初日の公演、デュトワさんの気合いの入った指揮を楽しんできました。
2001/6/7 Thu.
場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:田部京子
田部京子さんが、まだあまり知られていない頃、小樽のレコード店のスタジオで演奏を聴いた記憶があります。今回は、それ以来のコンサートとなりました。 プログラムの内容は私が普段よく弾く曲や、HPでも取り上げている小品が何曲かありましたので、より楽しみでした。 最初に吉松隆さんの「プレイアデス舞曲集」を演奏されたのですが、「プレイアデス」とは牡牛座の肩のあたりに位置する7つほどの星からなる小さな星団なのだそうです。 この曲集は響きが、とっても印象的で、美しく瞑想的で、弾いてみたいなと思いました。 私がよく弾く作曲家シベリウスの小品は、オーケストラの大作を作り上げる合間に書かれた可愛らしい曲で、ピアノと向き合って静かに語り合うような感じがあります。中でも「樹の組曲」の中の有名な「樅(もみ)の木」では、イントロの風のようなアルペジオが情熱的な響きで演奏され、ふわっと沸き上がるように弾く私の演奏とは対照的でした。 メロディーが美しく浮き上がり、和音は静かに添える程度で、このバランスが素晴らしかったです。 続いて北欧の代表的な作曲家、グリーグの抒情小曲集も、よく弾きたくなる曲です。「夜想曲」、「郷愁」など5曲演奏されましたが、透明で美しい余韻を残し、たっぷりと歌い上げるピアノに感嘆しました。 心地の良い響きの中に居ると、早く家に帰って、無性にピアノが弾きたくなってしまいました。 後半のプログラムはシューベルトのピアノソナタ第19番ハ短調でした。 田部京子さんは日本を代表するシューベルト弾きとして注目されていらっしゃるのですね。 この曲はベートーヴェンの「悲愴」と似ていて、かなりベートーヴェンを意識して書かれたのが伺えます。 ハ短調特有のドラマティックで、ベートーヴェン的な堂々とした演奏は前半の可憐な小品の優雅な演奏とは、うってかわって、ひたむきな炎のような演奏でした。 それにしても、シューベルトは亡くなる直前の20日間で第19番から21番までを書き上げているのですよね。 いずれも傑作と言われている作品です。 美しい音の中に、時折、怖くなるような響きがちりばめられていて、何度聴いても不思議な音世界だと私は感じてしまいます。 何度も何度も繰り返す事に、ひたすら長さを感じてしまい、正直、苦手なシューベルトのピアノソナタですが、いつか弾いてみたいと思う時が訪れたなら演奏しようと思っています。 アンコールでは、先日キーシンの時でもアンコールで演奏されて感激したリストの「リゴレットパラフレーズ」をまた聴くことができました。 田部京子さんの演奏も素晴らしかったです。 とにかく優雅で華があり、何よりも聴いていても見ていても、素晴らしい安定感! ダイナミックな演奏であるにもかかわらず、速いパッセージやダイナミックな和音を弾くときでも腰が全く浮かないのですから、どうしたらそんな事ができるのかと思いながらも、その演奏に酔いしれていたのでした。
2001/5/24 Thu.
場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:及川浩治
これまでにも、何度かリサイタルに出かけて聴いていますが、今回はオールベートーヴェンということで、ことのほか楽しみにしていました。なんといっても最初に聴いたときの『熱情』が、あまりにも強烈でした。
演奏に先立って、ベートーヴェンが書いた有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を、及川浩治さん自身が読まれました。
耳疾の不治、満たされない恋、癒されない悲しみのなかで書かれたものだと言われていますが、ベートーヴェンが自殺にまで思い至る危機を、芸術創作への意欲によって克服した証言と解釈されています。
途方もなく落ち込んだ時にベートーヴェンを弾いたり、聴いたりするとファイトが出てくるのは、ベートーヴェン自身がこのような苦悩を乗り越えたという事が音楽に現れているからなのかもしれませんね。
コンサートはピアノ・ソナタ第8番の『悲愴』から始まりました。 曲名は後から弟子などによって付けられる事も多いのですが、『悲愴』は、ベートーヴェン自ら名づけたそうです。
重々しい冒頭の音を聴くと、やがて訪れる挫折や苦悩の影が、すでに伺えるようです。
第1、3楽章は、ちょっと置いて行かれるように感じてしまう演奏でしたが、対照的な第2楽章は、まさにアダージョ・カンタービレの歌の世界が美しく会場に響き渡りました。
面白かったのは、演奏会後半『テンペスト』の前奏のような形で、「エリーゼのために」を演奏されたことです。 こういった演奏会でこの曲を聴く事は滅多にありません。
『テンペスト』『熱情』と大曲に入る前の準備の意味だったのか、何かもっと深い意味があったのかもしれません。
エリーゼが誰なのか未だ謎ですが、恋人へのラブレターと思われるチャーミングな曲ですよね。及川浩治さんの手に掛かると、大きな曲に感じてしまい、いつもと感じが違う情熱的な「エリーゼのために」でした。プログラムの最後に置かれていた『熱情』。嵐のような凄まじさと雄大な内容を持ち、何事にも負けない闘争心、そして、両端楽章に挟まれた第2楽章の「やすらぎ」が魅力で大好きな曲です。これまでにも何人ものピアニストの演奏を聴いてきましたが、及川浩治さんの演奏は、大変エキサイティングで、今回も素晴らしかったです。特に第3楽章の火山が噴火するがごとくのコーダは圧巻で、思わず「ブラボー!」と心の中で叫んでしまいました。こんな迫力のある演奏の後も、あまり間を置かずに3曲のアンコールがありました。2曲目、リストの超絶技巧練習曲『狩』の凄かったこと!
聴いていてというより、見ていて固まってしまいました。髪を振り乱して弾くのがトレードマーク?の及川浩治さん。その演奏は、まるでリストのようでした。
2001/5/22 Tue.
場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ギター:パコ・デ・ルシア/ラモン・デ・アルヘシーラス/ホセ・マリア・バンデーラー
ベース:カルロス・ベナベン
パーカッション:ルベン・ダンタス
フルート、サックス:ホルヘ・パルド
フラメンコ・ダンス:ホアキン・グリロ
カンテ:ラファエル・デ・ウトゥレラ
今回は珍しく、ギターの演奏会に出かけました。スペイン音楽を勉強していると、ギターで弾いたら、きっとこんな感じになるのかしらと思いながら弾く事がしばしばあって、是非ギターの演奏を生で聴いてみたいと思っていました。 今回はパコ・デ・ルシアさんという素晴らしいアーティストによる演奏はもちろんのこと、フラメンコ・ダンスやカンテ(歌)が入り、スパニッシュな音楽世界を堪能しました。最初にパコ・デ・ルシアさんのソロで始まりました。暗転した会場の中、暗めのスポットライトに照らされたギターの響きが、スペイン音楽特有の情熱的でほの暗い情念を感じさせ、心に直接響いてきます。 そこへパーカッションが加わり、一段とリズミカルになっていくのですが、手にカスタネットを持っているに違いないと思って聴いていた私は、それが素手によるものだということに気がついて驚きました。彼らは終始リズムを取り続けていましたが、一体どういう手をしているのでしょう? 演奏会が終わったら腫れてしまわないのかしら? と心配になる程の人間打楽器に驚きました。 椅子に座っているかと思えば、その椅子(きっと楽器なのでしょうね)を叩いたり、手を叩き、足を打ち鳴らし、まさに全身を使ってのパーカッションは演奏を盛り上げるだけでなく、それだけで素晴らしいパフォーマンスになっていると思います。フラメンコ・ダンスを踊ったダンサーは男性でしたが、私のイメージではフラメンコは女性が踊るものと思っていました。目を奪われてしまうような激しい動きと、ステップを踏む足もパーカッションとして演奏に加わっていて、スペインの音楽って身体を鍛えなくては演奏できないのでは?と思いました。 カンテが入り、時にはフルート、時にはサックスで語り合うようなアンサンブルは、まさに魂の音楽。 曲も伝統的なスパニッシュの音楽を母体にジャズの要素がずいんぶん取り入れられているといった印象のもので、聴いていて本当に素敵でした。 また、メロディーが無くリズムだけで流れていく場面もあり、不思議な感じがしました。 スペイン音楽のピアノ曲では特にファリャやグラナドスが好きな私ですが、リズムだけが強調される場面があったことを思い出し、やはり通じるものを感じました。 ピアノ曲の演奏でも、これらの多彩な音やダンスの要素が曲の中に含まれているので、実際に聴いて、見ることが出来たことの意義は大きかったと思いました。
2001/5/18 Fri.
場所:サントリーホール
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
ポリーニは、私にとっては神様的な存在のピアニストです。 中学生の頃、ピアノの先生にショパンのエチュードを聴かせて頂いたり、初来日の時は、わずか7分でチケットが完売したりなどのエピソードを思い出します。
今回、ようやく聴けたわけですが、やはりチケット購入時は大変でした。 今年59歳になるポリーニですが、実力・人気共に世界No.1のピアニストなのではないでしょうか。
この日のプログラムはオールショパンでしたが、最終日にも同じプログラムで「アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに捧げる」コンサートとなっています。ミケランジェリは、ポリーニ、アルゲリッチの恩師にあたる方で、1995年に急死した大ピアニストです。
私も、いつか聴いてみたいと思っていただけに亡くなった時は大変ショックでした。そんな事もあって、今回は東京公演へと足を運びました。
プログラムの前半は幻想曲、幻想ポロネーズなど私の好きな地味編?ショパンがずらりと並んでいて、巨匠が奏でる音に聴き入りました。ラローチャの時にも感じたのですが、無駄な動きや、大きなパフォーマンスは一切無いのですが、出てくるその音に何度も何度もはっとさせられてしまいました。ショパンの消えかかる命、最後の力を振り絞って書かれた炎のような傑作、幻想ポロネーズは聴いていて、ぞくっとするほどに妖しく、幻想の世界へと誘われました。後半はショパンの作品群の中で最も好きなバラードの4曲でした。ポリーニの演奏でこの傑作を聴けるという、最高の機会に恵まれて本当に幸せです。
詩情豊かなドラマ、まるで大河を思わせるような流れの演奏には、終始圧倒されっぱなしでした。
本当に東京まで聴きに行った甲斐がある素晴らしい演奏に大満足でした。 この後のアンコールもショパンでしたが、エチュード3曲を含んで、なんと5曲も弾いて下さいました。
アンコールの途中途中では沢山の花束。 抱えきれないほどの花束を何度も何度も受け取ってのアンコールでした。 中でもプレリュード「雨だれ」の音の美しさと、雨がもたらす大地の匂いや、湿った空気まで感じ取れるような演奏は、ホールに居る事を忘れて、部屋の窓からしとしと降る雨の庭を眺めているような、そんな錯覚を覚えました。 何度となく聴いている曲ですが、こんな風に感動したのは初めてでした。既に来シーズン、"ポリーニ・プロジェクト2002
in 東京"が予定されているそうです。 意欲的な巨匠のピアノに対する情熱に触れることができて、私も励まされたのと同時に、自分の音楽を見つめ直す良い機会になったと思いました。
2001/4/5 Thu.
場所:札幌コンサートホールKitara 大ホール
ピアノ:エフゲニー・キーシン
13歳でデビューした天才少年キーシン。 当時TVや雑誌で、その天才ぶりが紹介され、驚いたものですが、実際演奏を聴く機会にも恵まれました。 華奢であどけない顔の小柄な少年の演奏を目の当たりにし、ただただ驚くばかり。 相当ショックを受けたことを記憶しています。 29歳になったキーシンですが、今や若き巨匠として世界中で活躍していて、 久しぶりの札幌リサイタルを心待ちにしていました。 プログラムは、”J.S.バッハ/ブゾーニのトッカータ、アダージョとフーガ ハ長調”(キーシンは、なんと1歳で姉が弾くバッハのフーガを口ずさんだのだそうです。 幼い頃からバッハの音楽に興味を抱いていたのですね。)から始まりました。 満員の観衆が息を殺して聴き入っているような緊張感が会場に漂いました。そして、すぐ緊張感から解放されるような曲への滑らかな入り。 オルガン演奏特有の華やかな演奏で3楽章まで一気に惹きつけられました。 続いて”シューマンのピアノソナタ第1番 嬰へ短調”です。 当時、シューマンと、後に妻となるクララは、クララの父親に結婚を反対され会うことも禁じられていました。 この曲は、シューマンがクララに宛てた手紙の中で「きみへの心の叫び」と書いたように、孤独で痛切、そしてクララへの想いに満ちています。 キーシンの演奏から、ひたむきで燃え上がる情熱を感じました。「音楽家かつ詩人」でなければ書けないような曲...特にアリアは、ピアノの響きに満ちた言葉の無いポエム。 美しい音に想像力を羽ばたかせることができました。 プログラムの最後は”ムソルグスキーの展覧会の絵”。今回最も聴きたかった曲です。 ムソルグスキーが画家であった友人の遺作展を訪ね、霊感を得て作曲したと言われています。 全体は10曲と絵から絵に移るムソルグスキーの心の動きを表している『プロムナード』で構成されています。私は、この『プロムナード』がとっても好きです。力強い冒頭、「さぁ!」と弾くのかしらと思ったのですが、ここでもキーシンは、なんともしなやかなアプローチでした。 曲への移行が素晴らしく、絵の中に入ってしまいそうなくらい。 「古城」では29歳ということが信じられないような演奏。中世イタリアの古城の前で吟遊詩人がうたう甘美な感傷をたたえる名画が見事に表現されていました。 色々な場面を堪能して、「キエフの大門」の壮大なフィナーレで演奏が終わると聴衆からは「ブラボー!」と、札幌ではめったにみないスタンディング・オベーションでアンコールが止まらなくなりました。それに応えて4曲のアンコールがあったのですが3曲目にリストの「リゴレットパラフレーズ」が飛び出しました。リストならではのダイナミックで華麗な曲と繊細で美しいピアノの音に感嘆!こんなに綺麗な音は聴いたことがないと、誰もが思ったにちがいありません。 あまりにも長いアンコールで、拍手をする手がしびれてしまいました。 それほど札幌市民を熱狂させたコンサートでした。
2001/2/11 Sun.
場所:札幌コンサートホールKitara 大ホール
ピアノ:仲道郁代・仲道祐子
仲道郁代さんは好きなピアニストの1人で、このコンサートノートにも何回か登場していますが、昨年の12月頃から、妹の仲道祐子さんとデュオコンサートを始められたとのことです。
2台のピアノでデュオするときは、ピアノを向き合わせて演奏する事が多いのですが、舞台の上には、舞台の中央にお二人が背中合わせに座るような感じでピアノが反対向きに置かれていて、不思議な感じです。P席と呼ばれる舞台の上側の席には、なにやら大きなスクリーンがあります。 一体何が始まるのだろうと思っていると会場が暗転。 まるで映画館のようになり、スクリーンには、お二人の子供の頃の写真が映し出されて.... 子供の頃、アメリカで生活していらしたというお二人、どうやら今日のコンサートは、アメリカでの生活のお話などを織り交ぜながらの楽しいひと時を演出してくださるようです。 前半のプログラムは、アメリカ国民に愛され続けている、ルロイ・アンダーソンの作品でした。クリスマスソングの「そりすべり」はあまりにも有名ですが、どの曲も聴けば、「あぁこの曲!」って思うものばかりです。 ピアノデュオですが、パーカッションも入れての楽しい演奏です。
ピアノ演奏をしながら、パーカッションを演奏するのですから、舞台の上は大忙し。それに息を合わせるのが大変そうです。 風変わりなピアノの置き方はこの為だったのですね。
でもさすが姉妹。ぴったりと息の合ったスピード感とウイットに富んだ演奏はとても楽しく、今日は会場に子供達が多かったのですが、とても静かでした。
「前半はちょっとふざけすぎたので、後半はアーティストらしいところもお見せしましょう。」と始まった後半のプログラムは、クラシックスタイル、今度はピアノを向き合わせての演奏でした。 ドビュッシーの「小組曲」は連弾用なのですが2台のピアノでの演奏ですとオーケストラ効果十分、テンポの揺れや音の幅に、よく呼吸が合っているなと感心しきり、ドビュッシーの音の宇宙空間を堪能させて頂きました。 そして、最後はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」からでした。
Sound Walkingのクリスマスページに選曲したのとほとんど同じ曲でしたので、ちょっと嬉しかったです。
こちらもオーケストラ的な華やかな演奏でした。特に「こんぺい糖の精の踊り」は、実際にチェレスタで演奏しているような響きで驚きました。それぞれの楽器の特徴をよく研究して演奏しなければ、と自分の演奏を振り返って思いました。
コンサートって本当に勉強になります。
トークでも会場から笑いを誘っていましたが、お二人はとても対象的。 顔もあまり似ていらっしゃらないし、演奏スタイルも...。お姉さんの郁代さんが、やはりリードされてましたが、ホットで本当に見ているだけで熱くなってしまうような演奏です。
妹の祐子さんは、ちょっとクールな感じ。 性格が違えば、出てくる音もまた違います。
その二つの個性、二つの音があわさって一つの音楽になっているところが、デュオコンサートの魅力なのかもしれません。
お二人がそれぞれソロ活動をされながら、姉妹デュオが今後どのように展開されていくのか、とても楽しみです。