2000/12/12 Tue.
場所:札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:横山 幸雄
コンサートノートに書くのは初めてですが、横山幸雄さんのリサイタルに出かけたのは4回目になります。1990年のショパンコンクールで3位に入賞されて以来、精力的な演奏活動をされていらっしゃる横山幸雄さんですが、デビューから10年経つのですね。その演奏といったら、「憎たらしいぐらい上手い」それが初めて聴いたときの印象でした。今回は演奏に入る前にプログラムの曲について、横山幸雄さんの想いや解説がありましたので、大変参考になりました。プログラムはピアノの歴史を感じさせるような配列で、バッハからベートヴェン、そしてショパンからリストという運びでしたが、なるほどピアノの持っている可能性や音色がこうも作曲家によって変わるものなのかと思いました。とかく堅苦しく思われがちなバッハですが、生き生きとした音で演奏したいと、おっしゃっていた通り、溌剌としたイギリス組曲第3番ト短調、ドラマティックなベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」でした。以前、「熱情」や「告別」を聴きましたが、横山さんのベートーヴェンは、とっても惹きつけられます。音の切れが素晴らしくデリケートな音がまた素敵で、それは後半のロマン派のショパンの「ノクターン第4番」、「バラード第4番」へと繋がっていきました。ピアノの可能性が最大に発揮されたリストでは「森のささやき」、「小人の踊り」。あまりにもチャーミングな響きに会場では、あちらこちらで溜息が聞こえてきました。最後は「スペイン狂詩曲」で本領発揮!まさに「ピアノの魔術師」リストならではの作品で華麗で技巧的な曲でした。聴き応え十分のプログラムでしたがアンコールがまた素晴らしかったです。ここでも心憎い選曲が。「ピアノはこうでもある」といった具合にバッハのコラールなど、2曲しんみりと歌い、シューベルトの即興曲では別天地へ連れていかれてしまいそうな美しい音色。こんな音を聴かされた聴衆はそう簡単にピアニストを帰さなくなります。拍手が止まらない。それに応えて4曲目はユニークで動きのあるドビュッシーのプレリュードでした。まだまだ聴きたかったですが大満足でした。そうそう、横山幸雄さんといえば、大のワイン好きで、ピアノの下には、なんと1000本のワインが眠っているのだそうです。ワインはショパンのように美しい!とおっしゃる横山さんが書いた「ワインのエチュード」という本を今楽しく読んでいます。
2000/11/7 Tue.
場所:札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:西村 由紀江
HPでも西村由紀江さんの曲はよく弾かせて頂いていますので、一度コンサートを聴いてみたいと思っていました。
「風が生まれる瞬間(とき)」というタイトルで、西村由紀江さんがTVの取材などで様々な場所へ旅をし、そこでインスピレーションを得て作曲されたオリジナル曲を中心としたコンサートでした。
以前、厳寒の北海道を訪れた時の番組を見ましたが、生まれてきたメロディーをすぐ書き留められるように、小さな五線譜を持ち歩いていらして、音の鳴らないキーボードでそれを弾いて楽譜にしていく様子が今でも印象に残っています。
西村由紀江さんの曲を演奏する時は、いつも自然の空気を感じます。
曲は譜面上はそれほど難しく無いのですが、音の響きがとても奇麗で、その響きを出すのが大変だと常々思っていたのですが、
会話をするように自然な流れと豊かな響きの演奏は、とても参考になり、また感動いたしました。
聴きながら、どうしようもなく涙が出てきて困った場面がありましたが、皆さん涙していたようです。西村由紀江さんは「心を歌うピアニスト」なのですね。
私も、そんな音が出せるように益々頑張っていきたいなと思ったコンサートでした。
2000/11/3 Fri.
場所:札幌芸術の森 アートホール
音楽監督・ピアノ:舘野 泉
オストロボスニア室内管弦楽団
指揮:ユハ・カンガス
”夏のPMF”に対して、いつのまにか毎年恒例になってしまっている”秋のノルディックライト”です。1年が経つのは本当に早いなぁと思いながら、紅葉の美しい芸術の森へ出かけました。
この日は大変暖かく、演奏会の前後はデジカメで写真を撮りながら散策を楽しみました。
今年は現在ヨーロッパで最高の室内楽弦楽団の一つとして注目を集めている、オストロボニア室内楽弦楽団の演奏を堪能しました。
音楽監督の舘野先生との競演によるクラミ作曲のフィンランド民謡や、市民からの参加を募って結成された合唱団とのシベリウス作曲のフィンランディア、メゾソプラノの駒ヶ嶺ゆかりさんとのフィンランドのクリスマスソングなどバラエティーに溢れていて楽しいひとときを過ごしてきました。
フィンランドのクリスマスソングは馴染みのあるアメリカのクリスマスソングとはだいぶ雰囲気が異なり、しみじみと落ち着いていて、いかにも北欧の雪の中のクリスマスを想わせる曲想です。 演奏後に、出演されたアーティストの皆さんと一緒に、ちょっとしたパーティー気分を味わえるのも、このコンサートの楽しみです。
2000/10/11 Wed.
場所:札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:有森 博
日頃お世話になっている楽器店の40周年記念コンサートで、有森
博さんのリサイタルを聴きにいきました。有森さんはこのコンサートノートにも何回か登場していますが、私の好きなピアニストの一人です。
"ひょこひょこ"といった感じで舞台に現れ拍手と供になぜか笑いが起こる登場、
しかし椅子に座った瞬間からまるで別人の様に演奏にのめり込んでいく、そのジキルとハイド氏に、今回もまた、最初から最後まで釘付けとなってしまった素晴らしいコンサートでした。
最初にチャイコフスキーの代表的なピアノ曲「四季」より6曲演奏されましたが、ロシア的香りが漂うロマンティックで妖艶な音に、すっかり魅了されてしまいました。
有森さんの演奏は、超人的と言われるテクニックより、むしろ魂が音楽と一体化していると感じられるところに特徴があるように思います。
もちろん、体全体のバネを使った、俊敏でかつしなやかな動きで紬だされる、スケールが大きく、豊かで幅のある音にはいつも圧倒されます。
現在もロシアまでレッスンに通っていらっしゃるようで、回を重ねる事に音に磨きがかかっているのが感じられます。今回、特に勉強になったのは、フォルテシモから始まるフレーズの歌い方なのですが、私ですと、只ひたすら強い音から、更に頑張って強い音を出そうとするのですが、最初にデリケートな前置きがあって、そこから胸のすくようなフォルテシモまで持っていく運びに、なるほどと思いました。
アンコールでは、キタラの小ホールの音響が気に入ったのでしょうか、何と6曲も演奏してくださったのです。
曲目もバラエティで、最後はビートルズの「イエスタディ」!とっても聴き応えがあり楽しい演奏会でした。
2000/10/6 Fri.
場所:札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:熊本 マリ
私がスペイン音楽に興味を持ち始めた頃は、まだモンポウの存在が日本ではあまり知られていない頃でしたが、熊本マリさんを知ったのは、そのモンポウのCDでした。
スペイン音楽といえば、アリシア・デ・ラローチャさんが有名ですが、熊本マリさんは幼い頃スペインで過ごされ、よくラローチャの演奏会を聴きに行き、度々アンコールに演奏される、なんともいえない不思議な魅力を持った曲
「秘密」を聴いて心を奪われたそうです。 その話は後から知ったのですが、実は私も熊本マリさんの演奏されたCDを通してこの「秘密」という曲に不思議な魅力を感じていました。そんなわけで、以前から演奏会を聴きたいと思っていたのですが、なかなか機会が無く、リサイタルを聴くのは今回が初めてでした。
今はTVやラジオなどで活躍されている、女優さんのような美人ピアニストですから、ステージに登場されると、あっという間に華やかな雰囲気に包まれてしまいました。その雰囲気の中、すっと椅子に座ったかと思うと、とても自然にピアノの演奏に入っていくのです。
どんなピアニストでも、ある種の緊張感が伝わってくるものですが、熊本マリさんの演奏は聴き手に緊張感を全く感じさせない自然さが不思議な魅力だと感じました。
幼い頃スペインで過ごされた時に、公園の砂場などで、子供達がみんなピカピカの革靴を履いて遊んでいたのが今でも印象に残っているのだそうですが、
そういうスペインでの生活の印象が演奏にも現れているのでしょうね。
どの曲でもそうですが、特にスペインの曲は楽譜だけではわからない独特の音楽性というものがあるように思え、それはその土地で生活してみないと得られないものなのかもしれません。 熊本マリさんの演奏も、スペインの太陽のような情熱的な音や、思わず涙がこぼれそうになるくらい哀しい音が豊かに表現されていて、音楽を聴いているうちに、まるで時空を旅しているような錯覚を覚えました。
2000/9/22 Fri.
場所:札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:黒河 好子
黒河好子さんは札幌を中心に活躍しているピアニストで、ぞくぞくするような演奏をされるのが魅力で、とにかく華のあるピアニストなのです。私がピアノ講師になりたての頃、度胸試しと、演奏を評価してもらいたくて「グレードテスト」を受験してみたことがありましたが、その時の審査員の1人に黒河好子さんがいらっしゃって、びっくりしました。何を弾いたのかさえ覚えていませんが、目が合ってしまい微笑まれたので何だかホッとしたのは覚えています。合格点を頂いたようでしたので、それ以来テストは受けていません。
リサイタルを聴くのは何年ぶりになるかしら?変わらずスリムで長身の素敵なピアニストの登場!にっこり微笑んでラフマニノフ編曲の「バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」よりアレグロから始まりました。ちょっと不協和音が気になっていたら、なんだか表情が厳しくなって第2曲に入るまで長い間があり、緊迫したムードが漂ってきました。どうしたのかしらと不安に思っていると、なんと残る2曲をやめて、モーツァルトの「ソナタ
イ短調K310」へ入ってしまったのです!ステージ上で潔くスパッと切り替えられたのは凄いと思いましたが、私としてはバッハの音楽から急にモーツァルトへと変わったので気持ちがついていけず、残念でした。ただ、発表会などの演奏を通してですが、些細なミスが大きなミスに感じられたりすることがありますので、恐らくそのような心理状態だったのではないでしょうか。終楽章に入る前に、また微笑まれたのですが、曲想はそういった感じではありませんので、ご自分に対してなのでしょうか。それが本当の切り替えだったのではと思いました。休憩をはさんで、今度は挑むような表情で登場。後半の難曲なプログラムを見事に演奏されました。中でも最後のバラキレフの「東洋幻想曲
イスラメイ」は圧巻でした。超越技巧の極めつけのような曲で、あまりの難しさ故、滅多に取り上げられない曲ですが、以前、有森
博さんの快演を聴いています。まさに狂気乱舞、長い腕、長い指で力強く演奏される黒河さんに釘付け、目にも止まらぬ速さで熱狂的に突き進んでいき、ストレートのロングヘアが何度も舞います。時には女性が演奏した方がエキサイティングなのかも知れないと思った程です。切れの良い音で本当に凄まじい演奏、終始鳥肌が立っている私でした。最後に思いっきり音を弾ききって、さっと立ち上がり、お辞儀されていたのには参りましたよ。この演奏だけで、大渋滞の中を辛抱強く通り抜け聴きに行った価値がありました。ブラボー!
2000/7/31 Sun.
場所:札幌芸術の森・野外ステージ
指揮:チエン・ウェンピン他
オーケストラ:PMFオーケストラ・札幌交響楽団
1958年から1972年まで、アメリカのテレビ・シリーズ「
ヤング・ピープルズ・コンサート」という番組に出演したバーンスタインですが、音楽に対する溢れるほどの愛情と情熱を若い聴衆と分かち合ってきたのですね。 バーンスタイン自身「ヤング・ピープルズ・コンサートは人生の中で最も気に入り、誇りに思っている仕事のひとつ」と語っていたそうですが、PMFもその延長にあったのでしょう。 ビデオやLDでも発売されていますが、今回のPMFでは、第一巻にあたる「音楽ってなに?」が取り上げられました。 演奏曲目も全く同じでした。会場の子供たちに問いかけながらの演奏は、なかなか面白かったです。 パンフレットにはこんな風に書いてあります。 ”たとえば作曲家が、何かお話にそって音楽を作ったとします。本当の音楽の秘密は、そのお話にあるのではなく、「音」そのものにあるのです。そして、その「音」は、作曲家が心から表現したかった気持ちや感情からわき出てくるもので、これが音楽の最も大切な部分であり、音楽の本当に意味するものなのです。” ところで、こういう音楽祭を通じて思うのですが、日本人ってシャイですよね、もちろん私も含めてですが、舞台の上と会場が一体になってというより、聴衆は聴衆として聴き入るというスタイルになってしまうように思います。 ですからこのコンサートの様な、観客との対話で進行するような舞台は難しいだろうなぁと感じました。 しかし、バーンスタインなら、あるいはそういう部分を超えて日本人の心をも掴んで楽しい演奏会になるのではないかと思うと、実際、バーンスタインが日本人相手に熱く音楽するところを見たかったです。
11年前のPMF第一回の時に、ちらっと見ることができたのが最初で最後となってしまった事が、とても寂しいです。 あの時は、ハンカチを敷いてひとりで聴きましたが、今となっては懐かしい想い出です。 - ちなみに最近は、ワインにビールにフランスパンなどを持ち込んで楽しい1日を過ごすのが毎年の楽しみになっています。
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2000/7/22 Sat.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
指揮:シャルルデュトワ
オーケストラ:PMFオーケストラ
ヴァイオリン:シャンタル・ジュイエ
今年もPMFの夏がやってきました。今年はN響の音楽監督であるシャルル・デュトワさんを迎えてのお祭りということで楽しみに出かけました。
プログラムの最初は現在も活躍中のアーロン・ジェイ・カーニスさんの作品「ムジカ・セレスティス」。弦だけの少人数で演奏されたこの曲は「天使が神を称えて永遠に歌い続ける」という中世の言葉の意味合いにインスピレーションを得たのだそうです。弦の透明感のある音が、とりわけキタラのホールに合っていて天上の音楽を聴いているようでした。途中で、たまらなく咳が出そうになってしまいましたが、音楽を壊してしまいそうで涙目になりながら堪えました。そのカーニスさんが客席で聴いていらしたのですね。拍手に応えて何度もステージに上がっていらっしゃいました。続いてカナダの美人ヴァイオリニストの登場です。シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第2番の熱演で前半の終了です。後半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」。これはオーケーストラを楽しめる曲でした。パーカッションが活躍する曲って見ていても面白いですよね。特に木琴が管楽器とユニゾンのような形で出てくるのには、斬新さを感じました。それぞれの楽器の活躍とアンサンブルを堪能できる曲なのですね。隣に座っていた方は身を乗り出して音楽に合わせて揺れていたくらいでした。おしまいはラヴェルの管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」でしたが、5月にダン・タイ・ソンさんのピアノソロでも聴いた曲です。見ていても聴いていても、よく、あんな曲が弾けるものだなって驚く程、凄まじさを感じました。オーケストレーションの達人であるラヴェルですが、エキゾチックな香りが漂う優雅で派手なこの曲は、やはり大人数のオーケストラで演奏されると堪らない魅力がありますね。デュトワさんの指導で若いPMFオーケストラを聴いて、蒸し暑い夏に爽やかな風を感じた気分でした。
2000/5/25 Thu.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
ピアノ:舘野 泉
ヴァイオリン:アウドゥール・ハフスタインスドッティル
チェロ:ブリンディース・ハトゥラ・ギルファドッティル
演奏歴40周年を迎える舘野先生ですが、実に様々な趣向での精力的な活動には本当に驚いてしまいます。昨年秋に、このメンバーでの演奏を聴く機会がありましたが、それから本格的に「舘野
泉トリオ」としてピアソラのタンゴを収録しての全国ツアーです。 この演奏会の感想として相応しい言葉をあれこれ探してみたのですが、「是非一度聴いてみて下さい」というしか無いくらい、どこか超越したものを感じました。 どのような言葉も、今日の演奏に対してはなにかが足りないと思ってしまうのです。 酔っぱらって壁に「にこにこおじさん」なんて書いてしまう無邪気な一面を持つ舘野先生ですが、演奏に入った途端、円熟した男性の色気と優しさが溢れ、チェロのブリンディースさんからは、女性の私でさえ酔ってしまいそうな女性の色気が漂い、そこに、アウドゥールさんのヴァイオリンが微妙なタッチで絡んでくる、まさに、これこそがタンゴなのだと、タンゴの事を良く知らない私でさえ思わずうなずいてしまうのです。 舘野先生のコメントによれば、本場アルゼンチンでは、タンゴの演奏は男性にだけ許された領域なのだそうですが、今日の演奏を聴く限りは、男と女の情熱的な音楽タンゴの演奏は、このようなユニットこそ相応しいのではないかと思ってしまいます。
それにしても、チェロという楽器は、なんて素晴らしい楽器なのでしょう。ピアノがオーケストラのほぼ全域の音を出すことができる万能選手だとすれば、チェロの音域、音色は、人の心を揺すぶるのに十分なもののように思えます。 そして、 ブリンディーズさんの演奏する姿をを見ていると、深く、優しく、美しいチェロの音は、母の愛を感じさせるものがあり、せつない響きは女性の心を映しているかのようで、思わずため息が出てしまいます。 「チェロを弾く女」なんて、そんな名前の絵画があっても良さそうだと感じるほどの美しさを見るだけでも、今日の演奏会は価値のあるものでしょう。 CDでは絶対に味わえない感動的なコンサートでした。
2000/5/24 Wed.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
ピアニストでもあるエッシェンバッハさんですが、私が学生の頃、よくピアノの先生のお宅で、モーツァルトのピアノソナタなどのレコードを聴かせて頂いて、その端正な音楽に憧れていたものです。 一昨年まで夏の音楽祭PMFの芸術監督を務めていらして、特に芸術の森での野外コンサートの時、炎天下の中でのマーラーの交響曲第5番の熱演が印象深く残っています。 PMF期間中は、演奏会やTV取材のインタビューを通して音楽に対する「厳しいひたむきさ」を教えて頂いたように思います。 昨年はPMFに参加されなかったっこともあり、この演奏会を心待ちにしていました。 ハンブルク北ドイツ放送交響楽団は、いままで何回か来日していますが、1998年にエッシェンバッハが首席指揮者を務めてからは、今回が初来日コンサートとなります。
プログラムはシューマンの交響曲第2番 ハ長調
Op.61とベートーヴェンの第7番 イ長調 Op.92でしたが、共通して感じたのは勝利を手にした輝かしい音楽でした。 シューマンの方は、シューマン自身が精神的な病と戦いの中で、様々な葛藤の結果、落ち着きを取り戻して、曲を書きあげたという意味での勝利、 ベートーヴェンの方は、当時住んでいたウィーンが、ナポレオン軍に占領され、4年もの間曲をかけなかった訳ですが、そのナポレオンが敗れ、再び曲を書くことが出来るという意味での勝利が感じられました。「不滅のアレグレット」として名高い第2楽章は、とても好きな曲ですが、葬送行進曲風のリズムで歩んでいくこの曲は、ナポレオンに対して書かれたものなのだろうか...。まるで会話をしているような対旋律が美しく悲しい響きとなって訴えかけてくるようでした。
祖国ドイツに戻ったマエストロが指揮する、ドイツの偉大な音楽家による音楽は、溌剌としていて躍動感に溢れていました。アンコールの3曲目にブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」が演奏される頃には、会場は異常な熱気に包まれオーケストラの団員が会場から退場するまで拍手が鳴りやみませんでした。
2000/5/16 Tue.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)小ホール
フルート:阿部 博光
ピアノ:井上 直幸
著書「ピアノ奏法」とビデオで話題となっているピアニストの井上直幸さんを、お目当てに楽しみにしていた室内楽でした。 おどろいた事に、井上直幸さんは、阿部
博光さんの奥様の叔父(伯父?)さんにあたる方なのだそうです。
今まで親しんで来た曲が、空間にメロディーの線を織り込む事で、その空間に彩りを与えているのに対して、現代曲は無の領域に様々な音を散りばめる事で空間そのものを作り出しているような気がしました。音楽がイメージの具象化であるとすれば、現代曲のそれは、より直接的なアプローチなのかもしれません。一見突拍子も無いような音が次から次へと飛び出ては消えていく、そんな無秩序な印象も受けますが、それをフレーズとしてではなく、全体が醸し出す印象として捉えると、確かにそこには計算されたイメージの場が作り上げられているような気がします。
そのような理屈は抜きにしても、今日の演奏会は楽しめました。ピアノの伴奏を得て伸びやかにうたうフルート、無伴奏では澄んだ音色がホールに響き、その音がホールの静寂に緊張を与え、とても気持ちの良い空間を作り出していました。圧巻はやはりユン・イサンの歌楽(ガラク)でしょう。フルート一本でここまで様々な表現が出来るのかと思わせるほど多彩な音色でアジア的な空間が生み出されていくのを感じました。ピアノの井上先生との息もピッタリでしたが、さすが日フィルで主席奏者を勤めた方だと感じる、素晴らしい演奏で、音の1つ1つが繊細さと力強さを併せ持っていて心に強く響いてきました。フルートの音色を楽しみ、現代曲を身近に感じる事ができたコンサートでした。
2000/5/14 Sun.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
ピアノ:ダン・タイ・ソン
学生の時、ショパンコンクールでアジア出身者が初めて優勝したということで話題になりました。たまたま東京へ遊びに行った時、コンサートを知り(確か東京文化会館でした)、断崖みたいな席で青くなりながら聴いたのが初めですが、あの時のショパンのワルツ第7番の演奏が今でも忘れられません。なんとも言えない美しく哀愁のある音に心打たれました。あの音がまた聴きたくて、今回で3度目のコンサートとなりました。
プログラムの前半はショパンのソナタ第1番、第2番。あまり演奏されることがない1番はショパンが18歳の時の作品。初めて聴く曲でしたが、これが後のショパンの音楽に通じていくのだなというのが聴き取れました。2番は冒頭から凄みのある音で、緊迫感に溢れていて目が離せない演奏でした。高い位置からの確実なタッチで力強く弾かれるダイナミックな和音は、見ていて大変勉強になりました。ショパンのソナタを聴いていると、自信に満ち溢れていると共に、もの凄い挑戦をひしひしと感じました。後半はフランス音楽で、フォーレとラヴェル。もう、ため息の連続でした!
澄んだ美しい音が、まるで織物のようにメロディーとなって優しく、情熱的に会場を包み込むようでした。特に感動したのがラヴェルの「水の戯れ」。「河に棲む神は、水にくすぐられて微笑む」という詩が曲の冒頭にあるのですが、華麗なテクニックと音楽性で輝かしい水の動きを表現されました。息をのむような素晴らしい演奏でした。そして、アンコールはショパンのノクターン19番ホ短調。これも若い時の作品ですが、ホ短調独特の切ない痛みを持った旋律がダン・タイ・ソン氏の奏でる音と相まって、知らないうちに涙がこぼれていました。この日は母の日ということで、お国のベトナムの曲をアンコールの2曲目に披露してくださいました。「母の日に 黒い馬に乗って踊る」と題されたベトナム民謡を元にしたこの曲は、滅多に聴けるものではないでしょう。
一緒に聴いていた母も喜んで聴いていました。
2000/4/26 Wed.
場所:小樽朝里クラッセホテル
ピアノ:舘野 泉
メゾ・ソプラノ:東 園己
今日はちょっと優雅に、ドレスアップしてホテルのディナーコンサートへと出かけました。
舘野先生のサロンコンサートへは何度も出かけていますが、ディナー付きは3度目です。北海道の春はこれからで、まだ肌寒く、桜も5月に入ってからようやく見ることができますので、今日もスプリングコートを着ていきました。
今日のタイトルは「春に寄す」。今の季節にピッタリのタイトルで、心地の良い春風を感じさせてくれるような爽やかなプログラムでした。
たくさんの小品の中で印象的だったのは、ドビュッシーとパルムグレンの「月の光」の対照的な曲想です。 ドビュッシーの方はピアノの名曲として、よく知られていて、Moon
Soundsでも取り上げています。 とても美しく官能的な曲です。 一方、パルムグレンの「月の光」は今回初めて聴いたのですが、
高音の響きが美しく、北欧独特のひんやりとした空気を感じる曲でした。 そして、ずっと聴きたいと思い続けていたグリンカ/バラキレフ編の「ひばり」を、ようやく今日聴くことができました。 なんて悲しく美しく鳴くのだろうと、初めてこの曲を聴いた時以来、すっかり恋をしてしまっているのです。 何度かチャレンジしていますが、これから何年もかけて磨いていきたい曲のひとつです。 メゾ・ソプラノの東さんは小樽在住の声楽家です。人の声って、こんなにも出るものなのかと、その豊かな声量には驚かされます。 先生の伴奏からは歌曲に対する想いが伝わってきて、ひときわ素敵! 実は、舘野先生の奥様のマリアさんは声楽家なのですよ。
ピアノ独奏と東さんの歌の伴奏で舘野先生の音楽を存分に楽しむことが出来て幸せな一日でした。
もちろんディナーも美味しかったです。
2000/4/18 Tue.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
指揮:堤 俊作
チェロ:林 峰男
10年程前にオーケストラと大合唱(300人)で競演するという余市町の企画があり、そのときに指揮されたのが、今日の指揮者である、堤氏でした。
混声合唱のためのカンタータ「土の歌」(佐藤
真)という曲だったのですが、当日のオーケストラの代わりとして、合唱の練習の際のピアノ伴奏を私が任されることになったのです。
9ヶ月間に渡る練習の中、3回来町してくださり、プロの厳しい指導を受けました。
その甲斐があって本番は驚くほどの成功を収め、興奮したものです。
それ以来お目にかかっていませんので、どんな演奏が聴けるのかと楽しみでした。
1993年にロイヤルチェンバーオーケストラを創立し、日本のバレエ音楽の第一人者である堤氏は、小柄ですが大変貫禄があり、自信に満ち足りていました。
プログラムの最初はバッハの末子の作品でシンフォニア 変ロ長調。 初めて聴く曲でしたが軽快・流麗・力強さと、各楽章の性格が楽しめました。 続くサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番 イ短調 はチェリストが林 峰男氏。
堤氏とは学生時代からの付き合いなのだそうですが、お互いの信頼感が聴く側にも伝わり、とても安らかな気持ちで聴くことができました。
チェロ協奏曲をコンサートで聴くのは今回が初めてで、アンコールでカザルスの「鳥の歌」が演奏された時は、オーケストラの透明感あふれ、悲しく美しい響きと、詩情豊かなチェロの旋律がひとつとなって、胸が熱くなってしまいました。
プログラムの最後はモーツァルトの交響曲第39番
変ホ長調です。 こちらは完璧といわれるほどの構成美を誇る曲。堤氏の指揮ぶりを一番楽しめた曲です。 そして、アンコールの最初はシャブリエの「ハバネラ」。
バレエ音楽の第一人者らしい表現で、なんて優雅で粋な曲想なのだろうと、うっとりとしてしまいました。
1988年から1992年まで札響専属指揮者だったということもあるのでしょう、聴衆の拍手も鳴りやみません。
堤氏も、それに応えて終始にこやかで満足そうでした。
最後はドボルザークの「ユモレスク」。独特のテンポ、小節の中でスリルを感じる動きに、ふと、10年前タイミングが合わず苦しんだ記憶がよみがえります。
当時は何故私ばかり叱られるのかと、悔しく思った事もありましたが、オーケストラの指揮を見ているうちに、当時の私はあのオーケストラ全員分の代役をしていたということに今更気づきました。 大変なのは当たり前のことですね。
しかし、指揮者の要求にうまく応える事が出来た時の喜びは今でも忘れられず、これからも貴重な経験として私の中に残っていくと思います。
今日のコンサートは演奏も素晴らしかったですが、私にとって、昔の知り合いに会いに行ったような、懐かしい思いの残るコンサートでした。
2000/2/24 Thu.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
ピアノ:仲道 郁代
今年に入って初めてのピアノコンサートでした。ヤマハ100周年記念センテニアルコンサートということで、好きなピアニスト仲道
郁代さんのリサイタルを久しぶりに聴くことができて嬉しかったです。サントリーホールでのライブ録音でブラームスのソナタNo.3とショパンのバラード4曲が入ったLDがお気に入りで、もう何度も見て(聴いて)いますが、ピアノに向かうその姿勢に惹かれます。
今日のプログラムは前半がメンデルスゾーンとベートーヴェン。後半はショパンが中心でした。メンデルスゾーンより4歳年上の姉、ファニー・メンデルスゾーンの可愛らしくサロン的な魅力を持った小品の2曲は仲道
郁代さんが演奏すると一層チャーミングでした。続いて弟のメンデルスゾーンの最高傑作である「厳格な変奏曲」。バッハのフーガのように多声部で重厚なコラール風ということから付いた題名ということですが、17の変奏曲は次第に技巧性を強めていき、華麗で聴きごたえのある演奏でした。特に曲から曲に移るタイミングが見事で大変勉強になりました。そして、今回、最も楽しみにしていたベートーヴェンの「熱情」ですが、去年サントリーホールで聴いたワッツを思い出してしまいました。あの時と同じで、どうもホールとピアノの響きが合っていないように思いました。残響が強過ぎるように感じられ、第1・第3楽章は多分、そういう点に苦労されたのではないかと。第2楽章の荘厳で安らかな変奏曲は、ピアノから最大限の歌を引き出して仲道さんらしい演奏だなと思いました。私にとって「熱情」は、この先もずっと勉強していきたい曲ですが、プロの演奏を聴いても第3楽章まで演奏することの集中力とパワーは大変なものだと改めて実感しました。
年齢を重ねて益々美しくなる仲道 郁代さんですが、後半は衣装を代えての登場に会場も沸きました。最初にシューベルトの即興曲 Op.142No.3のお馴染みの作品でした。後は、すべてショパン。ヤマハのコンサートとなると、小さいお子さんも多いので良く耳にする曲が選曲されました。地味編のショパンが好きな私には少し物足りませんでしたが、最後の「英雄ポロネーズ」は、全身のバネを使ったファイト溢れる演奏に拍手喝采でした。
2000/2/14 Mon.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
オルガン:イヴ・ラファルグ/リーヴ・ヴァン・デ・ロスティン
ヴァイオリン:富岡 雅美
テノール:ジェローム・アヴナス
バレンタインデーということで企画された、キタラが誇るパイプオルガン中心のコンサートでした。二人のオルガニストとヴァイオリン、テノール歌手の計4名のアーティストによる様々な演奏が披露されました。プログラムの最初は、ペロー作曲の「4手のためのオルガン組曲」でしたが、ふだんは一緒に演奏することがないオルガニストたちが仲良くなるようにという意図があって作曲されたらしいです。なるほど!パイプオルガンの連弾は初めて聴きました。今回、初めて聴いたといえば、ヴァイオリンの富岡
雅美さんですが、音が大変美しく、表現豊かな演奏に聴き惚れてしまいました。演奏はバッハの「ロンド形式のガボット」「G線上のアリア」、ラインベルガーの「序曲Op.150」、エルガーの「愛のあいさつ」でしたが、どの曲も堪能しました。二人のオルガニストによる演奏で圧巻だったのは、ロッシーニの「セビーリャの理髪師」序曲でした。まるでオーケストラを聴いているようなパイプオルガンの音の厚み、迫力で息もぴったりの演奏でした。最後はテノールとオルガンによるヴェルディの歌劇「リゴレット」より、有名なアリア「風の中の羽のように」でした。よく耳にする曲ですが、女心の歌だったのですね。自分を誘惑しながらも「女は変わりやすいもの」と公爵が歌うのを聞き悲しみにくれる女性...。でも、曲想は軽快で陽気なので、そういう歌だったなんて全く知りませんでした。アンコールは4人の演奏で、なんと「枯葉」でした。プログラムの選曲はちょっと「別れ」を感じさせる曲が多かったと感じたのは私だけだっだのかしら...。それにしてもパイプオルガンって色んな音色が出せるのですね。
2000/1/26 Wed.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
チェロ:ミッシャ・マイスキー
今年はJ.S.バッハ没後250年記念イヤーということですが、その幕開けにふさわしい究極のバッハ無伴奏チェロ組曲を聴き、たった今帰ってきたところです。最新のCDを聴いていましたが、3度もレコーディングしているそうで、マイスキーさんにとって、この組曲はチェロ音楽の”聖書”にあたるのだそうです。しかも今回が最後というわけではなく、果てしのないチャレンジは続くというのですから凄いことです。いつもはピアノかオーケストラのコンサートですので、ステージにピアノの椅子がぽつんとひとつだけ置かれているのを見るのは、それだけで新鮮であり、また期待が高まりました。
札幌公演のプログラムは第1番 ト長調、第3番
ハ長調、第5番 ハ短調でした。バッハというと、何か威厳に満ちた厳粛な音楽という感じで、私などは演奏する前にある種の心構えみたいのがありますが、そのバッハがマイスキーさんの手に掛かると実に楽しそうな音楽として伝わってくるから不思議です。今まで、バッハの音楽はロマンティックという言葉とは無縁だと思っていましたが、今日の演奏を聴いて目から鱗が落ちるおもいでした。マイスキーさん自身、「バッハの音楽はしばしば本当にロマンティックだと私は感じる」ということが、演奏に表れていたと思います。CDでも演奏の素晴らしさは伝わってきますが、実際にコンサートで聴く音楽の方が遙かに心に響くものがありますね。今日の演奏会を聴けたことの意義は大変大きく、とても嬉しく思っています。テンポの揺れや緩急の幅など自由に心に感じたままの演奏は、とてもダイレクトで細胞のひとつひとつにまでしみ込んでくるようでした。その演奏が終始、感動を与え続けてくれたことは、演奏中、しんと静まり返った会場と熱烈な拍手の渦が物語っていました。 まるで身体の一部のようにチェロを演奏する姿だけでなく、立ち居振る舞いも素敵で、拍手に応えて何度もチェロを抱えてステージに登場し、御辞儀をする姿にも芸術が感じられました。もうお終いなのかなと思うと、意表をついたようにストンと椅子に座り弾き始め、結局3曲ものアンコール曲を聴かせていただきました アンコール曲は全てバッハでしたが、こちらもまた素晴らしかったのは言うまでもありません。
2000/1/16 San.
場所:札幌コンサートホール(キタラ)大ホール
指揮:尾高 忠明
管弦楽:札幌交響楽団
今年最初のコンサートは、やはりキタラでのニューイヤーコンサートでした。ニューイヤーコンサートといえば、音楽の都ウィーンでの演奏会が有名で、シュトラウスの華麗な作品の数々を毎年TVで楽しむことができますが、この日のコンサートもそれを真似た感じで、楽しかったです。
第一部は「新世紀に向かって」ということで、西暦2000年の節目にあたる新しい世紀への期待をこめての演奏にふさわしいドヴォルザークの「新世界より」でした。日本では新年に「新世界」、暮れには「第9」と定着しているようですが、イギリスでの演奏会で指揮をすることが多い尾高さんは、あまりこの作品を振る機会が多くないのだそうです。そのせいか、演奏の方は厚みがなく、各楽器のハーモニーも今ひとつだったように思います。札響の良い時の演奏も何度も聴いていますし、大好きな作品のひとつですので少し残念でした。でも、第2楽章の有名な「家路」ではキタラの音響効果が最も発揮されるのでしょうか、暖かい響きが素晴らしくて涙が出そうになりました。
第二部は「ウィーンのワルツ&ポルカ」で、シュトラウスU世の楽しいポルカやワルツ、レハールの甘く優雅な「メリー・ウィドウ・ワルツ」などが流れて気分一転。 こちらの方はどうやら得意分野のようで、一部とは打って変わって深みのある生き生きとした演奏でした。尾高さんのお話もとってもユニークで、楽しい時間を過ごせました。アンコールの「ラデッキー行進曲」ではオーケストラの面々が演奏の途中で指揮者にクラッカーの嵐を浴びせたり、指揮者がそれに返したりと、見た目にも楽しませていただきました。こんな光景もニューイヤーコンサートならではですね。